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ーーー金曜日の夜はどいつもこいつも浮ついてやがる。
駅の入り口で円柱形の柱に背をつけながら、韮崎肇は口に出さず独りごちた。
在来線に加えて地下鉄や新幹線の全列車が停車し、デパートや地下街などの商業施設が併設された地方最大のターミナル駅は賑わっていた。
人がごった返し、見ているだけで暑苦しい。熱に浮かされた夏の夜だ。
伸びるに任せた茶色い髪の毛の下から、大声で騒ぎ散らす大学生達や、疲れ切った風態ながらも何処安堵の表情を浮かべる会社員らしき男や、すでに出来上がってる酔っ払いの集団等を流し見る。
姦しさに辟易し、肇はジーンズのポケットから手を抜き出し、白いイヤホンを装着した。
ポケットの中の、少し色の剥げたウォークマンのスイッチを入れる。切ないピアノの音色にダニエル・パウターの柔らかい声が乗り、喧騒に塗れていた現実が音楽に包まれた途端、それは優しい風景に塗り替えられた。ストレスに逆だった心が少しだけ凪ぐ。
肇はスマートフォンに目を落とした。
見ているものは、ゲイアプリと呼ばれるゲイ同士のマッチングアプリである。
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