プロローグ

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プロローグ

 今年で四十二歳になった。かつては会社員をして一般の人と同じように機械のように働いていたが、今は労働から開放された。実家の二階に住んでおり、仕事を辞めてからの今までの二十年、この狭くて忌々しい部屋から出るのは必要最低限の時だけだ。トイレのために外に行くこともなくなった。部屋の大きさは三畳ほどあり、部屋の中はアンモニアの刺激臭、洗われていないカーペットのベタつき、そしてヌルッとした不快な湿り気を帯びた空気が充満している。外から姿を見られるのはごめんだから、窓は決して開けない。この部屋は俺の国なんだ、誰の指図も受けないぞ。部屋の電気はとうの昔に切れており、明かりと呼べるものはパソコンのモニターだけだ。顔を青白く照らし、面と向かってとやかく言われずに自分以外とコミュニケーションを取ることができるこのパソコンが俺の全てと言っても過言ではない。  これを読んでいる君は、こんな暮らしごめんだと思うだろう、俺も最初はそうだった。面白いことに、人間すぐに慣れるものだ。ムカつく環境だがどうってことない。インターネットを通じて誰かとやりとりできることで俺は満足だ。俺はいつも周囲の誰よりも賢いと考えてきた。そして、時には頭脳明晰である自分自身を後ろめたくさえ感じさえしたものだ。外の世界はろくな奴らがいない。勤めをしているときに嫌というほど思い知った。あいつらは考えるということができない、あんな奴らと関わるくらいならいっそ自分の世界にいた方が有益だと考えた俺はある時、社会との関係を絶った。まぁ、それは今度話すとしよう。とにかく俺は一般の奴らとは違う。
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