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 彼の瞳に紗が掛かって・・・倒れそうになるも、ステラは彼の身体を急いで支える。 「リーディ?しっかり!!」 少し揺り起こされてリーディは、言葉をとぎれとぎれに紡いだ。 「・・・城まであと少し・・・とにかく城下には寄らずに城へ急いでほしい・・・。コウのことも・・・踏まえて、だ。俺の身分を明かせば大丈夫だと・・・思う・・。」 ステラは頷いて答えた。 「わかったわ。」 とりあえずリーディを支えて馬車の中へ連れ込みキャロルとメイに事情を話し・・・ ステラは一人急いだ。駿馬のバルッシュも空気を読んだのかいっそう早足で馬車を牽引してくれる。 ―こんな風に意地張っている場合じゃなかった・・・。 後悔が後を絶たない。 でもそんなことに気を取られている暇もなく、彼女は早急にプシュレイに着くことだけを考えた。 幸いにもその後魔物も出現せず・・・ 数刻後に馬車はプシュレイ城下に入城した。 「ステラ・・・?」 馭者のメイが目で訊いてきた。 ステラはすぐさま答える。 「とにかく・・・お城へ・・・・」 石畳を真っ直ぐ行けばプシュレイ城だ。 ☆ ☆ ☆ 幌の中ではキャロルが男性二人の状態を診ていた。 「・・・リーディも毒に・・・侵されている?」 ―あの巨大アリに噛み付かれた時だと思うけど・・・ 解毒の呪文が効かない。ポイズンオウルの毒はまだしも、何故なのかしら?  城下の石畳の上を突っ切ると城が目の前だ。ステラは門の前の門番に一礼すると、リーディに伝えられた通りこう告げた。 「我はスフィーニ王子、リーディ・ヴィエント・スフィーニの共の者である・・・。 早急に・・・イーノック卿に謁見されたい・・・!」   ☆ ☆ ☆  それからは話は早かった。 私達は城の中にすぐ通されて、リーディとコウが毒に侵されていることを告げるやいなや君主専門の医術師が来て処置を施してくれた。  その後謁見を許されて、王の間に案内されたのだ。 イーノック卿は四十路前後の穏やかな君主様だった。アッシュグレイの髪色の。 「・・・君たちは・・・リーディ王子の共の者と聞いたが・・・もしや・・彼が探していた・・・勇者の末裔・・・」 「・・・はい。」 私は、頭を垂れた。 「そうか・・・!!名はなんと。」 「ステラと申します。」  聞くところによるとリーディは3年前にもムヘーレス大陸を旅していた時にイーノック殿に一度謁見していて、勇者を探している話をしていたのだ。  彼は基本身分を隠して旅をしていたが、イーノック殿には身分を明かしていた。 どうしてなのだろうか? 「・・・実は王子の父君の古い友人なのだよ。」 「え?」 「エジット(リーディの父)はここプシュレイ出身の者でね?証書なんて交わさなくても 協力するつもりだった。形式上交わしたが・・・。」  私たち3人は、リーディとコウが目を覚ますまでイーノック卿とここまでの経緯を簡単に話した。  私自身の母オーキッドのこと、予言の封印を解く者・・・そしてあと一人を探していること。  スザナの若領主からも(ジョゼットの依頼もかねて)ベルヴァンドへ行かねばならないが、ベルヴァンドへ入国するのが難しい状況であること・・・などを。 イーノック殿は静かに聞きながら頷いてくれた。 「まさか・・・オーキッド姫が世継ぎを生み落されていたとは・・・。」 私の顔をまじまじと見つめる。 「彼(リーディ)も言っていた。リストンパークの血を引く末裔はどこにいるのかも 解らないのに・・・。勇者は居るのだろうかと。でも・・・よかった・・・。」 私は未だにそう言われて戸惑う。 仲間に助けられてばかりで、それなのに自分が立ち向かう相手は ・・・正体も掴むことさえままならない巨大なモノで。 そう複雑な表情で居た時 イーノック殿の御付の方がやってきたのだ。 「たった今、リーディ王子とお連れの方が目を覚ましました!」
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