闇駆ける三匹

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 でも驚いたのはそれだけじゃないわ。あたしたちが動かすはずの「10円玉」も、もう最近じゃ手に入らないんですって。時代はキャッシュレスだだオンライン決算だとか言って、携帯端末や手首に内蔵されたチップでみんな支払いを済ませているから、小銭どころか現金なんて今じゃもう誰も持っていないのよ。  代わりにあの子たちったら、何を使ってあたしを呼び出したと思う?  ペットボトルの蓋よ。  味気ないにもほどがあるでしょ? あんなスッカスカのプラスチックじゃぁ、こっちのやる気も失せちゃうって思わない?  それでもさ、せっかく久しぶりに『こっくりさん、こっくりさん』って、名前を呼んでもらえたわけだから、静電気がおきまくるタブレットの画面の上でも、鳥居の代わりにへったくそな鶏と家の絵が描かれていても、使われているのが軽々しすぎるペットボトルの蓋でも、誠心誠意質問に答えてあげようと思ったワケよ。  なのに、切ないわよぉ。  あの子たち、あたしに質問したいことなんて出てきゃしないのよ。好きな人だって、コンピューターが最高の相性の相手を見つけてくれる時代だから聞く必要なんてないし、生まれた時点でDNAと潜在能力検査装置でいずれ就く職業も決められているんだから、将来の夢だって尋ねる理由もないじゃない。  お天気にしたって、今じゃ全てオートマティックにスケジューリングされているから、数か月後の天気だって分かっちゃうし。  ほんと、つまらない世の中になったわよねぇ。  大体、10円玉、……じゃなかった、ペットボトルの蓋をあたしの妖力で動かしたって、あの子たちまるで驚きゃしないんだから。 『なるほど、これが【オートマティスム】。心理学用語でいえば【筋肉性自動作用】ね』  だなんてしたり顔で言っちゃって。可愛くないのよホント!  怪異や不可思議な現象に、みじんも恐怖や畏怖を感じたりしないんだから。  ねぇ、もしかしてこのままあたしたちって、人間から忘れ去られていくのかしらね。……辛いわね。  あら? 誰かしら? 遠くからあたしの名前を呼んでいる声が近づいてくるわ。まさか『お呼ばれ』? 『こっくりさん』で遊んでくれる子が、まだいたってこと?」
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