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「ぎゃう!」
いつのまにか倶盧蜜の背後にまで近づいていた子鹿に鉈は突き刺さった。
倶盧蜜は2、3歩よろめいて前へ倒れる。
その間に夏葉は物凄い速さで倶盧蜜の隣を通り過ぎ、子鹿を蹴り飛ばした。
ドチャ!と肉が潰れる音がして子鹿はビクンビクンと痙攣している。
「倶盧蜜!大丈夫!?」
夏葉はようやく声を出した。
夏葉自身も突然のことで声が出ていなかったのだ。
姉の声を聞き、少し安堵した。
それと同時にこの惨劇の理由を問いただす。
「それはー」
夏葉が答えようとした時だった。
「それはなぁ?俺の異能だよぉ!」
子鹿がビクビクビク!と小刻みに動くとその腹を裂いて男が現れる。
男は成人で、明らかに子鹿よりも大きい。
「おい、女。お前は良かったぞ?俺に操られた家族を躊躇なく皆殺しなんて狂ってやがる!まぁ、元には戻れないから正しかったなぁ」
この男、人間では無い。
いや、見た目は人間の男性だ。
血塗れにさえなっていなければそこそこな顔立ちだろう。
その異常さがこの男を人間では無いと脳は警鐘を鳴らす。
夏葉は倶盧蜜とその男の間に割って入る。
「お前、やっぱりいいよなぁ!そんな状況で、家族を手にかけ、それでも俺と対峙している!いい!すんげぇいいよ!」
目を離したわけでは無い。
しっかりと倶盧蜜の両の目は男を捉えていたはずだった。
しかし気付いた時には消えていた。
まるで幽霊か何かか?と思うほどに忽然と消えたのだ。
と、倶盧蜜の後ろで突然声がした。
「お前は、ダメだ」
それが何を意味するのか理解した時には夏葉が男の左腕を斬り落としていた。
男は倶盧蜜の後ろから離れ、距離を取る。
左腕を拾い、傷口につけると数秒後には傷が治った。
腕を可動して誤差を確かめる。
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