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人賑わい、活気あふれる街、番協街。
ここは様々な物流により栄えた商人の街である。
右を見ても左を見ても店、店、店。
ここを歩く人もやはり、それなりの身なりをしている。
正直言って下民はここには入れない。
いや、入ってもその身なりのせいで半ば強制的に追い出される。
そんな番協街の外れ、人は滅多に寄り付かない不気味な森がある。
試しの森と呼ばれるこの森は実は全国にあるのだ。
中に入れば方向感覚を失い、森から出られずに飢えて死ぬ。
その中の一つであるここの試しの森には不思議な力を持つ人間がいるのだと言う。
それが外苑が言っていた志士なのか、それともあいつと同類の神堕か。
倶盧蜜は森の入り口で足がすくむが、夏葉はずんずんと森へ。
慌ててついて行く。
昼間に入ったのに森はその葉を幾重にも重ね闇を作っていた。
ぬかるんだ地面に足を滑らせないように慎重に進む。
「ここにいるかしら?」
「え?誰が?」
「決まっているわ。志士よ。あいつを殺す力を手に入れるために、私はここに来たんだもの。あなたもそうでしょ?」
姉の質問に声にこそ出さなかったが頷くことで肯定を示した。
森を歩いていく。
この森は直径で3町ほどの広さがあり、真上から見れば円形になっている。
木々はかなり密接しており、間は人1人抜けられるかどうかだ。
辺りを探りながら進んでいくと、突然叫び声が聞こえた。
その声は助けを求めるものではなく、明らかにこちらに敵意を有している。
「姉さん」
小声で危険を知らせるが、夏葉は逃げるのではなく立ち向かおうと腰に刺した鉈を構える。
それに見習い同じく鉈を構える。
声が森に反響してどこにいるのかわからない。
背中合わせで全周囲を警戒する。
なおも声は聞こえ続けている。
そして、倶盧蜜の警戒する正面側、言わば2人が入ってきた方から風切り音が聞こえる。
2秒後、それは現れた。
「うっりゃぁぁぁ!!」
倶盧蜜の顔面に蹴りを1発入れ、左に吹き飛ばされる。
この森の密集した木々によって遠くまで行くことはなかったがかなりの勢いで木に叩きつけられた。
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