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夏葉はキッと男を睨んで跳躍する。
男は微動だにせずに「彌生」と呼んだ。
夏葉の下から彌生が顎に向けて蹴り上げる。
不意の一撃に夏葉は天を仰いだ。
「師匠!拳骨はやめて下さい!窪みます!」
「窪ませてんだよ!ったくオメェは本当に華が無いから哀しいわ!」
男は手を離し倶盧蜜を解放する。
と言っても50センチ程の高さから落とされたため尻餅をついて終わりだ。
「そこのお嬢ちゃん。意識は吹っ飛んで無いでしょ?貴方達、ここの森がどういう森か知ってて入ってきたの?」
男はその言葉には殺意が込められていた。
腕組みをし、その似つかわしく無い姿で凄まれると妙な恐怖感が漂う。
桃色の着物は嗚咽さえ誘うが今ここで吐くのを躊躇わせるほどの凄みがあった。
夏葉は目を閉じて開く。
すんなり立ち上がり、倶盧蜜の腕を引いて立たせる。
そして2人に向き直った。
「もちろんです。ここに来れば神狩藩の志士としての力を賜われると聞きました」
「ふーん。確かに私は志士。この子もいずれそうなるわ。でも簡単にここの事知ることはできないわ。ねぇ、誰に聞いたの?」
!?倶盧蜜は固まった。
まさか言えるはずもない。
神堕にここの場所のヒントを聞いたなんて。
そんな事言ってしまったら手先だと思われる。
「私たちは」
夏葉は静かに口を開いた。
「家族を化物に殺されました。私と弟の猶は父のおかげでその場を逃げ出せたのです。父は別れ際に神狩藩の事やこの試しの森の事を教えてくれました。私は力が欲しい!父の無念、母の悲しみ、そして、まだ小さかった嬉々と牡丹の未来のために神堕を残さず滅する力が!」
姉の気迫はあの外苑に匹敵するほどの殺気を孕んでいた。
倶盧蜜には姉の言った言葉の嘘を理解していたが野暮なことは言わなかった。
それを言えばせっかくの言い逃れが出来なくなる。
男は頭を掻き、顎に手を当ててじーっと夏葉の顔を見る。
「あなた、嘘をついてるわね」
そう言われて夏葉の表情が一瞬ぴくりと動いたが、常人では分からない。
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