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「ま、いいわ。女に秘密は付きものだもの。でもね、その殺意、従えるようになりなさい。でないとあなたが食われるわよ」
男はグイッと顔を近づける。
その言葉が嘘でないと言うかのように。
男はどこにしまっていたのか懐から便箋を取り出す。
その便箋には『願い状』と書かれていた。
「あなたは私では見れない。私が教えられるのはそこの坊やだけ。だから知り合いの所に行きなさい。ここから、そうね。北に向かってまる半月ほどかしら。そこの試しの森に亞皿良兵衛って人がいるから八津筒の紹介って言えばいいわ」
夏葉は便箋を受け取るとペコリと頭を下げて森を出て行こうとする。
「ちょっとお待ちなさい。家族の別れよ。一言ぐらい言って行きなさい」
八津は気を利かせたつもりだったが、夏葉はにこりと笑い首を振る。
そのまま暗い森の中へと姿は消えていった。
八津は姉を見送る倶盧蜜の肩に手を置き、
「よかったの?」
そう呟いた。
「大丈夫です。僕らはもう身寄りが無いので。2人で生きていかなくちゃいけないんです。ここでもし別れを告げたらそれが最後になりそうな気がするから、きっと姉さんは言わなかったんだと思います」
そうは言ってもまだ子供。
倶盧蜜が我慢しているのが手にとるように分かる。
「彌生。その子に訓練着をあげなさい。半刻後に始めるわよ」
「ういっす師匠!」
ゴンッ!
鈍い音が響く。
「ごらぁ!軽口挨拶禁止っつったんだろーが!」
「ばい、ずみまぜんじじょー」
倶盧蜜は決心を固めたのに揺らぎそうだった。
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