夏葉と倶盧蜜《きょうだい》

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○ この世は苦しい。 そう思い続けてきた。 母の腕の中から産み落とされて幾星霜経っただろうか。 比琉胡(ひるこ)と呼ばれるその男はある街のある高台の見晴台でその街の営みを眺めていた。 比琉胡は、妹と2人で生き延びてきた。 人を恨み、世を恨み、運命を恨み、2人で健やかに生きてきた。 「お兄様、今日は機嫌が良さそうね」 妹の淡洲(あわしま)が楽しそうに言う。 端がボロボロになった麻布の着物を着て、頭は島田潰しで纏めている。 ただ、一見するのはその結い髪に刺してある紅簪だろう。 装飾が施されたそれは妹の姿からは想像のできない高価な物だ。 淡洲の頭を優しく撫でると嬉しそうに頭を委ねてくる。 「ねぇ、お兄様。次はどうなさるの?」 比琉胡は眼下に広がる街を指差して言った。 そこに感情はあっただろうか。 そんな比琉胡が淡洲はどうしようもなく好きだった。 「殺そう。何もかも。あいつ等が造ったこの国の、如何なるものも壊し尽くそう。そして、私たちだけの高天ヶ原を築くのだ。そのために、アレを探し出せ」 それは妹に告げられた命令であり、彼等が作り出した手足への命令でもあった。 比琉胡達の前には当然手足なんていない。 だからこの命令はこの世に解き放っている手足達には聞こえないが、問題無い。 もう刻まれているからだ。 その力を授けると同時に刻んでいる。 深く、深く、深く。 忘れることなど無く、忘れることなど出来ない。
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