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倶盧蜜が目を覚ましたのは夜がさらに深くなる丑三つ時だった。
外から何か音がする。
その物音で目を覚ました。
むくりと上半身を起こすと両脇で眠る嬉々と牡丹。
倶盧蜜の服を掴んで寝ている。
その愛らしさに笑みがこぼれる。
「……」
やっぱり気のせいじゃない。
外から何かが呼んでるみたいだった。
眠っている家族を起こさないようにそっと外へ出るとそこには先ほどの子鹿がいた。
「お前、着いてきたのか?」
子鹿はくるりと踵を返すと走っていく。
ある一定の距離で止まる。
まるで付いて来いと言っているかのようだった。
子鹿の戯れだと思い跡をついていく。
四半刻程経っただろうか。
子鹿は何処かへ連れて行ってくれるものだと思っていたのだがどうやらそうではないらしい。
辺りを見渡した。
子鹿を追って獣道を通って来たが、何というか隠れ逃れるための道と言った感じだった。
何かおかしいと勘付いた時だ。
鼻をつく鉄の臭い。
知っている。血の匂いだ。人のではない。獣の匂いも混じっている。
辺りを注意深く見渡す。
「こっちか?」
恐る恐る匂いのする方へ近づくとそこにあったのは頭が半分抉れた熊の死体だった。
この熊は父でも手を出さないこの山の主的な存在だ。
自分の縄張りに入らなければ人を襲うことは滅多に無いが入ればその残虐性が牙を剥く。
その熊が死んでいるのだ。
つまりここはこの熊の縄張りの中だったということである。
死んでいたからいいものを知らずのうちに死の台座へと登っていた。
「お前、仕返しのつもりなのか?」
子鹿は首を傾げているように見える。
たまたま、なのか?
子鹿の真意はわかるはずもなく、家に戻ろうとする。
だが、子鹿は袖を噛んで行かせまいとしていた。
「おい、頼むよ。もう帰らないと。なんだかわから、ない、けど…」
待て。
あの熊を殺したのは何だ?あの父ですら手を出さないのに、他の動物が熊を殺した?違う!何かいるのだ。この山に何かが入って来たのだ。
「父さん、母さん、みんな!」
子鹿を振り解き、倶盧蜜は駆けた。
まさか、まさかまさかまさか!
飛び出しそうな心臓。
息が乱れ、思うように呼吸ができない。
最悪の事態だけが頭をよぎる。
見えた。家だ。
その前で誰かが取っ組み合っているみたいだった。
父さんか?
倶盧蜜は何かに躓きこけた。
1人が馬乗りになり、もう1人を拳で嬲っている。
誰だ?あれは誰だ?
無事なのか?みんな、大丈夫なのか?
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