唯一の恋

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私には好きな人がいる。 でも、その恋が叶うことはないだろう。 彼に恋したのはもう七年も前のこと。 たまたま通りかかった家の庭に彼はいた。彼の背丈ほどに育った木の側で、綺麗に咲いたピンク色の花を愛おしげに見つめる横顔に一目惚れしてしまった。 「それ、何の花なんですか?」 突然話しかけられたことに驚きながらも、彼は目を細めて返事をしてくれた。 「カリン。カリンの花だよ」 一瞬、自分の名前が呼ばれたのかと思ってどきりとした。――花梨(かりん)。それが私の名前だ。 「カリンって、喉飴とかのあのカリンですか? こんなにかわいい花が咲くんですね。知らなかった」 「うん。俺も知らなかった。綺麗に咲いたのに。見せてやりたかった」 そう言って切なそうに顔を歪めた表情にも、私は目が離せなかった。 ――見せてやりたかった。 その言葉が誰に向けられたものなのか、そのときに確認すればよかったのかもしれない。後戻りできなくなるほど、彼を愛してしまう前に。
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