唯一の恋

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彼には永遠を誓い合った婚約者がいた。この広い家には、もともと二人で住んでいたのだそうだ。 「あなたのことだけを愛し続ける」 ロマンチックよね、と言って庭にカリンの種を埋めたというその婚約者は、カリンの種が芽を出したころ、事故で亡くなったそうだ。 「だから、もう俺は誰とも恋をするつもりはない」 「花梨ちゃんの気持ちには応えられないんだ。でも、一緒にいた時間は楽しかった。ありがとう」 この人は、その婚約者のことだけを想って、これからの人生を一人で生きていくつもりなのだ。 私がもし、その婚約者だったら。 いつまでも自分のことを想っていてほしい気持ちもあるが、それよりも彼には幸せになってほしいと思う。 でも、そんなことは部外者の私には言えなかった。 もう何も言わなくなってしまった彼に、また来ます、と声をかけてその日は帰った。
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