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私は急いで徹の着替えを用意した。血の付いた服をビニールの袋に押し込むと、出掛ける準備を始める。一刻も早くこの家から出なくてはいけない。そう思った。
スーツケースに荷物を詰め、夕方買ったジュースの残りを持って家を出た。
玄関から出ようとすると、車が走り去る音が聞こえた。
正面から出るのは危険だ。私は徹の身体を抱き上げ、ベランダから外に出た。
家の前に停めてあった車に乗り込み、すぐに車を出した。実家に向けて走り出したのは、夜7時前だった。
どこにも寄り道をしないで車を走らせていると、徹は助手席で眠りについてしまった。あんなことがあったのに眠れてしまう徹を見て、すごいと思った。
いっそ、このまま夢だったことにしてしまおうか。あれは現実ではなく、夢の中の出来事。徹の友達が見せた幻ってことにしておけば、徹も納得してくれるかもしれない。
私は実家近くのごみステーションに袋に詰めた服を捨て、実家のドアを叩いた。
母は手を震わせている私を見ても何も聞かなかった。ただ、車のシートから徹を抱き上げ、家の中に運んでくれた。
「ご飯は食べたの?」
そう訊かれてハッとした。夕飯の準備をしてそのまま家を出てしまった。警察が気付けば、夫が死んだ時間に家にいたことがバレてしまう。
私は何も答えられなかった。
ただ、黙って今後訊かれるかもしれない警察の質問に対し、予習をした。
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