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「ずいぶんきれいに着飾ってるな」
そう言って笑った夫に、
「覚えてないのね。あなた、40年前にこの服を着た私にプロポーズしたのよ?」
と、あの日一緒に撮った写真を見せた。
色褪せた写真には、最近では見かけない髪型の男女が肩を寄せて立っていた。
握った手にはかつて夫がくれた指輪が光っている。今はサイズが合わなくなって指に入らなくなった指輪はネックレスに通して身に付けている。
あの頃と変わらないものより変わってしまったものの方が多い。40年も経てばそんなものだろう。しかし、変わらないものも残っている。
例えばこの時間。お祝いの日だけはお互いの不満を忘れて穏やかな時間を過ごせた。
「ずいぶん体型も変わったのに、まだ着れるんだな。うん…きれいだよ」
ダイエットしろよ…と、いつも文句を言っていた夫が久しぶりに褒めてくれた。
何年経ってもきれいでいたいのはみんな同じ。愛する人に褒めてもらいたいし、たまにはドキドキしたい。だからこそ過去を忘れたくない。
彼女はワンピースを再びクローゼットに畳んで仕舞った──。
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