ワンピース

1/16
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ

ワンピース

20歳。彼女は愛する恋人と2年の交際の末、プロポーズされた。 なんとなく予感はあった。最近、彼の行動がよそよそしかったから、その日のデートはいつもより服装にこだわり、お気に入りのワンピースを着ていった。案の定、彼はよく行く浜辺でプロポーズしてくれた。 淡いピンクのスカートが風になびいて、その瞬間、彼の手の中でキラリと輝くシルバーの指輪が見えた。嬉しくて言葉も出ず、ただただ涙を流した。 それから40年。色々なことがあった。大喧嘩して家を飛び出した日、初めての出産と子育て、夫の出世、一軒家購入。毎日何気なく過ごしてきたけれど、振り返ってみれば怒濤の日々を乗り越えてきたんだと思えた。 月日を追う毎に取り巻く環境も変わる。家具も家電も買い換え、サイズが合わなくて着れなくなった服もあった。 ふと、孫の結婚式を機に屋根裏の片付けをしていると、いつのものか分からない収納ケースが目に留まった。収納ケースの中には懐かしいワンピースが眠っていた。少し色褪せた生地がまた味わいを出している。 あの日、浜辺でたなびいたスカートが懐かしくて、彼女は40年後の結婚記念日にそのワンピースを着た。夫は気づいてくれなかった。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!