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狂犬
……暑い。
うだるような暑さで目を覚ます。
ぐっしょりとかいた汗でTシャツが身体に張り付き、気持ちが悪い。
身体を起こすと、ちょうどお母さんが部屋に入ってきた。
お母さんは少しだけ気持ち悪いものを見るような、でも可哀そうなものを見るような何とも言えない目で俺を見ると、そっと視線を外した。
檻の外に取り付けられた鍵をガチャンと外すと、ぎぃっと重い音を立てながら開けてくれる。……お父さんはもう仕事に行ったのか。
ペタペタと裸足で階段を上がり、お母さんの後について歩くと、玄関にたどり着く。
黙って裸足のままボロボロになって青くくすんだ靴を履いて外に出る。
外に出ても……いや、外は外で刺さるような暑さだ。目に突き刺さるほどの光で瞼をしっかりと開けられない。
背中でガチャンガチャンと重い音がした。
……喉、乾いたな。
公園に行こう。あそこなら水が飲める。
べたつく靴の中が気持ち悪かったが、何も感じないように歩く。
痛いも気持ち悪いも辛いも、どれもいらない感情だ。
お父さんが出来るまではそういう感情もあった気がする。もう、いつのころか覚えていないけれど、綺麗で大きな家に住むようになってから、こうなった。
俺は頭が悪く、面白みも可愛げもないから、むかし犬小屋として使っていた地下の檻の中に入れられているらしい。お前にそっくりだと見せられた写真に写る犬は大きかったけどやせ細っていて、みすぼらしかった。
ようやくたどり着いた公園でさっそく水を飲む。
最初は錆の味がするが、気にしない。とにかく喉が渇いた。
喉に錆が張り付き、ゲホゲホと吐き出しているとスーツを着た見るからに気弱そうな中年の男性がハンカチを差し出してくれた。
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