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鈴蘭の彼女
メアリーが結婚するために村を出ていくというので、仲間と一緒に鈴蘭の花束を贈った。幸せになるようにと祈りを込めて。
その花言葉の通り、愛らしく純粋で、少し控えめな彼女にはぴったりだったはずだ。
次に彼女が戻ってきたのは五年後だった。その間に彼女は娘を一人産み、夫の暴力を受けて死んでいた。
「おじちゃんは、お母さんのこと知ってる?」
遺された四歳の娘は、その父親の家から追い出されるようにして村へやってきた。母親が入っている小さな箱を抱きしめて。
その痩せ細った体からは、十分に飯も与えられていなかったことは明らかだった。なのに、白い花がよく似合う母親とそっくりの笑顔でこちらを見上げてくるのだ。世の中には、悪なんてものが存在しないかのように。
「もちろん知ってるよ」
「おじちゃんは、お母さんのこと好き?」
好きだったし、今も好きだ。むしろ、愛してさえいた。
ただ、それを口にしたことはない。
メアリーはその美しさを買われて、遠くの街にある由緒正しい家柄の軍人に嫁ぎ、畑仕事や夏の暑さ、冬の厳しさ、好色な村長の視線から解放され、穏やかな人生を歩むはずだった。きっとそれは、選ばれし人だけが手にできる幸せ。だからこそ、本当のことは最後の最後まで伝えずにいたというのに。
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