鈴蘭の彼女

2/7
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 もし、気持ちを伝えていれば、メアリーは村に残ってくれただろうか。つまり、まだ生きていたかもしれない。と思うと、途端に冷たい汗が流れるのだ。  メアリーを殺したのは、自分なのではなかろうか、と。  メアリーと同じ顔をした娘と目が合うと、息が止まりそうになる。いや、僕は悪くない。仕方がなかったのだ。こんな言い訳をするのは、もう何度目になることか。 「お母さんは、とっても綺麗な人だったのよ」 「そうだね」  お喋りな四歳の少女は、僕に向かって両手を伸ばす。まるで、実の父親にするかのように。羽のように軽い彼女を持ち上げて、膝に乗せる。 「お母さんはね、すずらんっていうお花が好きなのよ。寂しい時にすずらんのお花に耳を近づけたら、遠くの人とお話ができるのよ」 「遠くの人かい?」 「そうだよ。ずっとずっと遠くにいる人。お電話っていうものとよく似た形をしているから、聞こえるのよ。だからあたしね、明日はすずらんを摘みに行くんだ! お母さんとお話をするの」   この少女だって、村の神殿に預けた白い箱の中身が骨だということは知っているはずだ。その一方で大人は皆、「お母さんは遠くへ行ったんだよ」と言って誤魔化す。少女は何も知らぬフリをして、聞き分けよく頷いて、期待通りに子どもらしくすることに勤しんでいる。どこにでもある日常の風景だ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!