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「おじちゃんも聞いてみたいな。咲いている場所は分かるかい?」
「知らない」
「それなら、ちょうど良い。おじちゃんが連れていってあげよう」
◇
翌日、山へ入った。間もなく五月。ちょうどこの季節を選んでメアリーは帰ってきたのだろうか。
少女は鈴蘭を見つけると、この年頃特有の甲高い声を上げて、白い花の群生に飛び込んでいった。背中に妖精の羽をつけているかのような軽やかさで。深呼吸すると、やや青臭くもクリーンな香りが胸を満たす。
「見て! イヤリングみたいでしょ」
千切られた白い釣り鐘形の花が、彼女の耳元で揺れていた。
「あぁ、よく似合っている」
ひとまずレディ扱いして褒めてやると、少女はすまし顔でカテーシーを返してくる。おませなことだ。
「おじちゃん、大好き! でも、お母さんの方が好き!」
「そりゃぁ、そうだろうよ」
「お母さんのこと、一番好きなのはあたしなんだよ!」
一番、好き。
鈍器で後頭部を殴られたような気がした。
それによる自らの変化に気づくこともなく、ゆっくりと少女へと近づいていく。
「おじちゃん、怖い顔してどうしたの?」
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