鈴蘭の彼女

4/7
前へ
/7ページ
次へ
「おじちゃんも、君のお母さんの声が聞きたくなってね」 「いいよ」  少女は、また一輪毟ると、こちらへ寄越してきた。潰れかけた白い花の形を慎重に指で整えると、耳元へ運び目を閉じる。  メアリーとは、つい数ヶ月前まで連絡を取り合っていた。彼女の手紙には楽しかったこと、嬉しかったこと、そして娘の話しか書かれていない。  しかし、決まって最後には「村へ帰りたい」とあった。つまり、図らずも彼女の望みは叶ってしまったことになる。  それでは、もう一つの君の望みも叶えてあげようではないか。君をもう一度幸せにできるのは僕しかいない。 「君のお母さんはね、ずっと君と一緒にいたかったんだ」 「あたしもお母さんと一緒にいるよ」  少女は鈴蘭を花束にして胸に抱えていた。母親が入った箱を抱えていた時と同じように、その手指は青白く、何かに怯えているように見えた。 「でもお母さんいなくなっちゃったよ」 「そうだね。遠くに行っちゃったんだよね」 「大きくなったら会いに行けるのかな?」 「そうだね。うーんっと大きくなって、少し小さくなったら会えるんじゃないかな」 「どうやったら早く大きくなれるの?」 「そうだなぁ」 「嫌だ! お母さんに会いたいの!」  僕には子どもがいない。癇癪を起こした少女の扱い方なんて知らなかった。  そもそも結婚もしていない。メアリーがいなくなった時点で、僕の人生はその歩みを止めたのだから。 「じゃぁ、とっておきの方法を教えてあげようか」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加