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☆
物音で目が覚めた。薄いカーテン越しに朝日が射し込む。僕はタオルケットを剥ぎ、伸びをする。そして辺りを見回すと、ヒロが忙しそうに部屋を歩き回っていた。いつもなら僕が起こすまで机に突っ伏して眠りこけているのに、珍しい事もあるものだ。
僕はヒロが手に持っている物を見て愕然とする。
「……ヒロ?」
彼女は立ち止まり、こちらを振り返る。そして手に持った白い物体を掲げる。
「ああ、これ?」
それは紙の束だった。彼女が書き溜めてきたアイディアが詰まった沢山のメモ。僕がここに来た時はほんの数十枚程度であったそれは、ここ数ヶ月は部屋の一角を埋め尽くす程になっていた。それが部屋から忽然と消えている。
「私、働く事にしたの」
ヒロは束ねられた紙を見て呟いた。
「そうしたら、少しは美味しいご飯が食べられるでしょ。安いパスタとパンで凌ぐ毎日なんてやっぱり人間らしくない」
「……ヒロはそれでいいの……?」
僕は震える声で聞く。何故か分からない。自分の事ではないのに、凄く動揺している。
「もしかして、昨日の電話で何か言われて……」
「違う!そんなんじゃない!」
ヒロがバン!とテーブルを叩いた。僕はその気迫に思わず息を呑む。彼女自身も自分の行動に驚いたように、両手を見つめている。
「……ごめん、そんな事聞いて」
「……私こそ。ごめん」
大きく息を吸うと、ヒロは笑顔を作った。
「前からずっと思ってはいたんだ。いつまでもこんな事していられないって。いい加減現実見なきゃって」
ヒロは弾けるようにおどけて笑う。
「有名な脚本家になる夢は諦めてないよ?ただ、一旦生活を立て直すだけ。働きながら夢を追いかけてる人なんて沢山いるし────」
そう言った後、パンと手を打つ。
「あ、心配しないで!お金が貯まっても、ユウを追い出したりしないから!」
「────ヒロ」
僕は思わず口にした。
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