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「それだったら何で捨てる必要があるの……?」
ヒロは言葉を詰まらせる。
「それは────。ずっとあっても邪魔だし、一旦リセットしたいし……」
「もう書くつもりはないんじゃないの?」
僕はさらに言葉を重ねる。僕はただの同居人だ。ただの後輩だ。関係ないはずなのに、言葉が止まらない。彼女を追い詰める言葉になると分かっていても、確認せずにはいられなかった。
「────私は神様じゃないの」
ヒロがぼそっと言う。
「私には才能なんてない。皆の前で完璧でいられるように、裏で死ぬほど努力してきた。陰でコソコソと。カッコ悪いでしょ。そうして才能がある振りをして、皆の前では神様のように何でも出来る振りをして────」
力無く笑う。
「念願の脚本家にはなれた。でも、本当の天才はいるのね。どうしても彼らには敵わなかった。努力しても努力しても、平気で私を抜かしていってしまう────」
彼女が言葉を続ける。
「まだ夢は諦めてない。これは本当。でも、一旦離れようと思ったの。ただそれだけ」
そうしてヒロは僕に歯を見せて笑った。
「理想を崩しちゃったかな。私は神様じゃなかった。才能なんてなかったんだから────」
「知ってたよ」
僕は思わず声に出す。ヒロがはっとした顔でこちらを見る。
「知ってた。ヒロが────先輩が陰で努力してたって事。夜中まで講堂に残っていたのも見てた。全国大会で優勝を逃した日の放課後、誰もいない舞台裏で涙を流してた。努力しないで脚本を書いたならそんな事はしない」
「どうしてそれを────」
「僕は裏方担当だったから。よく機材の点検や照明のセットをしていたんだ。裏の部屋とか上の方に登ってたからヒロは気付いてなかったみたいだけど」
「ユウって演者じゃなかった……?」
「ヒロが無理やり引っ張って来てからはね」
「…そうだった」
「でも、そっかぁ……」
彼女は大きく溜息を付く。
「君ははじめから知ってた訳か」
がっかりした口調で言うが、その顔は晴れ晴れしていた。
「あと────」
ん?とヒロがこちらに視線をやる。
「────カッコ悪くなんてない、と思う」
ヒロは優しい笑顔で微笑んだあと、その場で泣き崩れた。
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