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最低
みすずは雅之の手にあるスマートフォンを奪おうとして彼の強い平手に返り討ちに合い、再びベッドに倒れた。
「どうして嫌がる。お父さんになってやると言ってるのに」
雅之はもう、自分の中にある壁を越えていた。ルビコン川を渡るとはこの事か、とも思っていた。
「あんた、」
みすずにまた、攻撃的な貌が戻ってきた。
「あんた最低だよ」
雅之はその気配を十分に感じながら、スマートフォンに収めたみすずの画像を表示して、射抜くような眼差しを送る彼女にそれを見せた。
「パパと呼んでごらん」
男の矜持も、倫理観も、佐分利から勧められるままにアプリに登録したあの日に捨てたのではない。あの、取り立てて惹きつけるものも無かった女を捨てた日、捨てていたのかもしれない。或いは雅之は元々、そういったものを持たない人間なのかもしれなかった。
誰も幸せにしない人。つまらない人。
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