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「似てる・・・?」
ステラは眩暈を感じながらキースの言葉を聞いた。少し視界が霞んでいる。
キースは彼女の様子がおかしいことに気が付き声を掛けた。
「大丈夫か?・・・そう。そなたが只の侍女ではないというのは・・・ザックをどうやって?」
―さっきの私の一連の行動は、おそらくマレフィックの力だ。私自身のマレフィックの力が発動し、本当の私がまるで他人のように自分を見ていた感覚は残っている。
―ザック隊長を誘惑して…私は?彼の鳩尾を打ったかしたのか?よく憶えていないのだ。
でも自分の身を守れたのは確かだ。
「・・・すみません、薬を飲んでもいいですか?」
「持病があるのか?」
「いえ、ちょっと疲れやすい体質であるだけです。」
ステラは平静を装い胸ポケットにある滋養薬を飲み干す。
・・・これで眩暈がなくなった。
「・・・そうか。では私の話の続きをしよう。私は十数年前に滅ぼされたリストンパークの元兵士だ。このカルサイトに入団してもう17年になるが、以前居た祖国でも近衛兵をしていた。」
・・・リストンパークの元兵士・・・!?
ステラの表情が微かに動いた。
「私は身寄りのないただの雇われの少年傭兵をしていて劣悪な環境下で行き倒れていたところを救ってくれたのがその当時の王女であった。」
「!」
「城に上がらせてもらい、きちんとした教育を受けさせてくれた。其の方のご厚意が無ければ今の私はない。しかし、そなたも知っている通り祖国は魔族によって滅ぼされた。おそらく王女も生き方しれずだ。」
ステラは驚きを隠せなかった。
キース隊長殿は・・・母さんを知っている。
「ステラ、そなたはそのリストンパークの王女に良く似ているのだ…それに・・・それだけではない・・・!」
キースはいきなり抜刀してステラにレイピアを突きつけた。
キースが繰り出したレイピアの切っ先はステラの喉スレスレのところで止まったが、ステラは反射的に避けて防御の構をする。
―しまった・・・!
勝手に身体が動いてしまい、気が付いた時はもうすでに構を取った後だった。
「・・・そう。立ち振る舞いを隠そうとしてもにじみ出ていた。そなたは戦いの心得があるだろう?」
「・・・。」
「先ほど私が言ったように、長官に突きだしたりなどしないし、信じてほしい、騎士道として一度約束したことは守る…。真実を知りたいのだ。」
ステラはじっとキースのヘーゼルの瞳を見つめた。真摯な眼差し。
そして、母を知っているというこの騎士殿は信用しても大丈夫だろうか?
彼女は少し考えて口を開いた。
「・・・私はこの国の内情が知りたくて侍女として入りました。志願兵がどんどん消えてゆく、このことについて周辺の町や自治領も
不審に思っております。」
「・・・。」
「この国は、一体どうなっているのですか?」
☆ ☆ ☆
グレインは静かに話し出した。
「自分はベルヴァンドのさらに北にある山奥のパネロイという村で生を受けた。両親もごく普通の村人であった。自分はただ人一倍体が大きく、並外れた怪力の持ち主で、それしか取り柄がないそんな少年だった。
あるときひとりの初老の戦士が村にやってきて私の両親にこう告げたらしい。
この者は私の先祖からの遺志をを引き継げるもの。何故ならこの貴石が光っている・・・。
そして託されたのがこのペンダントだったわけだ。
私には子が無い、しかしながら導かれてこの地を訪れた訳がわかった。この子にこれを託されたい
そう言い残してすぐに去ってしまった。
両親はこんな高価そうなものを受け取れないと追いかけたのだけど、その者の姿はもう無かったらしい。」
「ではあなたは…」
「ああ。それ以外何も知らないのだ。何のためにこれを託されたのかすら、キャロル殿に今聞いたことでようやく少しだけこのペンダントのことが分かった気がした。」
グレインは再び息をついて瞼を閉じる。
薬は効いてきたようだ。
「眠いですか?」
「少し・・・でも平気だ。もう少しなら話せる。」
「あまり無理はしないようにしてくださいね。」
キャロルの気遣いに、グレインは頷いて穏やかな抑揚で話を続けた。
「それから何事もなく私は成人して、村の女性と結婚し、一人息子を授かった。取り留めのない平凡な生活を普通に村で営むつもりだった。・・・しかし数年前に突然魔族が村を襲撃して、妻と息子は殺された。」
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