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「殺された…。」 キャロルは繰り返し呟き、 「ああ…ほんの数年前だ。」 グレインは何も表情を変えずにそう答える。 「村の衆の半分はやられたのだ。・・・失うものが何もなくなった自分が目指したもの、 それは・・・カルサイトに入ることだった。ちょうどベルヴァンドの周辺も魔物が増えて より強者の騎士を求めていた。  同時にそのベルヴァンド国家自体もカルサイトの募集があった4年前くらいから 様子がおかしいという噂もたっていた。  自分の家族が殺されたことと何か関係があるのではないかとそう思い大会に出場した。 何故なら魔物は男衆ばかり狙っていて戦士はどこだと叫んでいたと。  パネロイの民で体格の良い戦士並みの力を持った者は自分を入れて数人しかいない。 当時10歳だった息子も私に似て体格の良い大きな男児だったのだ・・・。」 表情は変えずとも、最後の息子のくだりで少しだけ彼の目尻が光った気がした。 ―・・・魔族は、封印を解くものに目星をつけていた。  それで隊長様も狙われたのだろう。 ―まずめぼしいところはスフィーニの王族であったリーディ。  そして、勇者の末裔のステラ。  特にステラは・・・マレフィック・ミックスであるが故に魔族にとっても  脅威であったようだ。 ―後の自分を入れて3人は喫緊を要しなかったのか。しかし襲われるのはきっと時間の問題だったのだ・・・。 キャロルはリーディに出会ったばかりのころ 魔性にさらわれて自分が殺されなかったことは幸運だったと思った。 あの時はあの魔性はステラが狙いだった。だからこそ自分は殺されなかったのだと。 「スザナのカルサイトの選抜大会で優勝した私はカルサイトの騎士となり、隊長になった。ベルヴァンド王の様子がおかしいのも懸念して。そして妻と息子が殺されたこととも もしかしたら関係があるのではとも思ったからだ。」 「・・・。」 「ともあれ、このペンダントの意味が分かったのは大きい。これを両親に託した戦士殿は昔の禍々しきモノを討った末裔だったのだろうか…。ところで…そなたのほかに誰か同じものを持つ者はいるのか?」 「二番隊隊長の下に付いた侍女が…かの滅ぼされた国の勇者の末裔です。」 「え・・・?」 ―キースのところの侍女だ。  確か・・・背が高くあまり見ない銀の髪で、人目を引く女だった。 彼女が・・・勇者だと? 「あと二人の男性の同じ志の者もここベルヴァンドに志願兵として入りました。あなたがここにいると、このペンダントが教えてくれました。そして…あなたと同じようにこの国の内情を調べてほしいと依頼されたのです。」 グレインは固唾をのんだ。 「相わかった…」 ☆ ☆ ☆ コウはダンと一緒に志願兵の控室に連れて行かれた。 そこはタコ部屋というほどのあまり良くはない環境の寝床が 雑然と置かれている。 とりあえずコウとダンやその他の志願兵は一晩そこで明かすこととなった。 粗末な褥(しとね)に横になりコウは目を閉じた。 すると…。 ぐちゃ・・・ぴちゃ・・・ どこからともなく 何かの音がする…。 職人でもある彼は五感は鋭い方だった 何故なら剣を鋳造する時、気温湿度なども 敏感に感じて都度それに合わせた方法で行う 必要があったからだ。 彼は耳もよい方であった。 出来上がった盾などを、木槌で叩いた時の音で どのくらいの耐久性があるかを判断する。僅かな響きで すべてを判断しなければならない。 ―この気味の悪い音は何だろうか…? コウは目を見開き静かに起き上がる。 ふと真横に寝ているダンを一瞥する。 彼も穏やかに寝息を立てていると思った。 起こさないように静かに立ち上がった瞬間。 「待て。」 足をそっと掴まれた。 「ダン…起きていたのか?」 「どこへ行く?」 ―理由を言わないと離してくれなさそうだな。 コウは少しため息をついた。そして観念して 言おうとした時ダンが先に口火を斬った。 「下からの音が気になるんだろう?」 「・・・気が付いていたの?」 二人は部屋を抜き足で出ると。廊下を見回す。 幸い武器は持っていた。 自前のボウガン類だ。 「地下の方に何かが居る気がするんだ。」 「そうか。もう一度ここで俺が耳を澄ましてみるか。」 コウは周りを注視しながらダンが耳を傍立てているのをすぐに見えないように隠すように立ち、ダンは廊下に耳を付けた。 しばらくの静寂の中 ダンははっとしたように目を見開き コウに告げる。 「何か獰猛な生物の鳴き声とともに、人の呻き声や叫び声がする…。」 ☆ ☆ ☆ ステラのまっすぐとした眼差しを受けて キースは思い出していた。 王女が最後に自分を見つめてこう言ったことを 「国をここまで壊滅に追いやったのは・・・私の責任。私は最後の役目を果たさなければならない。ごめんなさい。キース・・・。」 ―やはり似ている。しかし彼女はあまり触れられたくないのか・・・。 でも絶対王女の縁のものに違いない。 ―まさか。 自分の懸念はひとまず離れて、キースは彼女の問いに答えた。 「ベルヴァンド王のご様子がおかしいのだ。志願兵が消えてゆくのは私も知っているが 王はここ2年ほど我々とも謁見されないし、唯一許されているのはカルサイトの長官アゼル殿のみだ。ただ、これだけは言える、使えない弱い若い男どもは何かの餌食にされている・・・!」 「餌食?」 「このベルヴァンド一帯を徐々に弱体化させているようでならないのに、警備には出させてもらえず、何故か魔物も獰猛になってゆくばかりだ・・・。何のためにカルサイトの騎士を各地からツワモノを集めて選抜したのか意味が分からない。」 キースは長官に呼び出された時のようにぎりりと奥歯を噛みしめた。 「どうにかして私も・・・この弱体化してゆく国を守り、きちんと謁見して王と話がしたいのだ・・・。」
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