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 リーディはベッドで微睡ながら一日を振り返る。 ―カルサイトの見習いは、俺のほかに数人。北の地の出身者ばかり。ムヘーレス大陸の出身者もいた。それは置いておいて、ベルヴァンド王の方も気になる。 ―かつて父上が仕えたベルヴァンド王・・・。確か王には俺の姉(フィレーン)と変わらない歳の王子がいたはずだ。しかしここの王族の噂は一切出てこない。 もう少し様子を見るしかないのか…。  もともとリーディは寝つきが悪い方だ。 いつからか…頭を酷使しすぎるせいもあるだろうが、今は亡きディーダに数年前に居城を襲撃された惨事から彼はショートスリーパーになってしまった。常に気が立っているのだろう。  でも今の油断が許されない状況下では却って好都合だ。  しかし、まったく休まらないのでは、後から身体が持たなくなる。塩梅が難しいが彼は割り切って今度こそ眠りについた。 ☆ ☆ ☆ ステラはキースに母のことを訊かれたが、結局のところ最後まで本当のことは言えなかった。 ―でも、キース隊長殿はなんとなくそうなのではないかと(私が王女の娘であること) 感付いている気がする。もしここで私が正体を現したら・・・?だから慎重にした方が絶対いい。 結局キースとは一通りのことを話して夜更けであることから、とりあえず部屋に戻るように言われたので、ステラはおとなしく控室に戻る途中だった。 一番隊隊長ザックのことはキースがどうにか諌める。 キース自身と同じようステラも城内に不信感を持っているのなら どうにか共に突き止めようというところで話は終わった。キースは自分の直属の隊長になるので仕事中に話す機会もある。 完全には信用しきれてないけど城内では動き易くはなった。 ―とりあえずキャロルにも報告しないと…。 そして、部屋に戻るとジェーンが心配そうに待っていた。 「姉ちゃん・・・だいじょうぶ?」 「・・・平気よ。それよりジェーンこそ…。」 泣きそうな顔で項垂れている彼女をステラは抱き寄せて頭を撫でながら言った。 「ジェーンの上司の隊長殿については心配するなと私の就いている隊長殿がおっしゃってたから心配しないで。怖かったでしょう・・・。」 ―しかしキャロルはまだ戻ってこない…。一体どうしたんだろう? 赤毛の大きな人だったな。キャロルの担当の隊長様は。気のせいかもしれないけど、ちょっと調子が悪そうにも見えた。 ― 一体何者なんだろう?あの赤毛の隊長様…。 ステラはジェーンに寝るように促して自分も ガウンを脱ぐとベッドに滑り込む。 ―にしても…気持ち悪かった。 首筋をいやらしく触れられた感覚が残っている気がしてステラは首をすくめる。危機一発で自分の貞操は守れたが、ザックに触られたおぞましい感触はまだ忘れてはいない。 ―キャロルが心配だけど、なんとなくだけど あの隊長様なら大丈夫な気がする。 自分の内なる声を信じよう。 ステラは少し微睡みながら体を休めることに専念した。 ☆ ☆ ☆ グレインは静かに頷いて言った。 「キャロル殿…私がカルサイトに入ったのも何かの因縁、いや、宿命か。そなた達と勇者に巡り合うために…私はここに誘われたのだろうか?」 「…。」 黙っているキャロルを一瞥して、再びグレインは口を開いた。 「ともあれ私もベルヴァンド王の様子がおかしいのはずっと気になってはいた。今朝も止める従者やほかの騎士たちを振り切り、直談判しに行ったのだ。」 「直談判…?」 キャロルは少し怪訝そうな顔でグレインを見返した。その視線を感じたのかグレインは少しだけ間をおいて、詳細を紡ぎだす。 「ああ。もうこの際だからキャロル殿には言うが、この毒傷はその時に負ったものだ。 王の間の前には護衛の他におぞましい怪物がいた。私が護衛に食ってかかった時に、そいつが急に現れて噛みついてきたのだ。そなたが言っていた若い志願兵が消えてゆくことと関係があるかもしれない。その怪物は毒を持っていた。それに私はやられて…今に至るってわけだな。」 そんなグレインの話を聞き、 キャロルはリーディがプシュレイ城にて言っていたことを思いだした。 ―この周辺はかつては解毒の魔法が効かない猛毒を持った魔物はいなかったはず、と。 ベルヴァンド城にもそのような猛毒を持った怪物がいるというの…?  かつては居なかったのに、どうしてこの近辺でそういう魔物が出現するようになったのかしら?ベルヴァンドについての疑念と噛んでるのは否めないわ・・・。 「キースにも明日話してみる。彼もこの城の今の状況を危惧している一人だ…。 何せ彼は私よりもここに就いて長い。ましてやその勇者殿が下に就いて居るのであれば 話も早い。やっと真実が明るみに出る時が来るのかもしれない・・・!」 ☆ ☆ ☆  コウとダンは見張りがいるかどうか確認すると素早く建物の外に出た。 丑三つ時…。この宿舎の警備は手薄の様だ。 夜風が冷えるが二人は構わずにあたりを見回す。 「建物内部には地下に行く通路がなさそうだったので外に出たものの…。」 コウが即座に周りを観察して嘯くと、 「隠された所にきっとあるのかもしれん。この城の一部の者しか知らないのであろう…。」 ダンもそう呟く。 にしても、だ…。 ―どこをどう行けばいいんだろ?あの奇妙な呻き声や何かを捕食するような気持ち悪い音の聴こえる場所へ行くには? ―確かにこの宿舎の真下からだった…。地道に耳を澄ませて、五感で感じて探り当てるしかないのか。 コウは顎に手をやり、しばらく考えた。 「とりあえず宿舎の周りを根気よく調べてゆくしかないかな…」
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