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 仲間たちがベルヴァンド城に旅立って数日。メイはプシュレイの宿の一室にいた。  プシュレイ城に滞在するように勧められたが、メイは堅苦しい城の雰囲気が苦手だった。  スフィーニの城でも、高価な調度品には惹かれたが、あの清廉な感じとか、堅っ苦しい形式ばった雰囲気が性に合わない。彼女は商業都市の賑やかな下町で育ったからだ。  イーノック卿の計らいで宿でも一番いい部屋に滞在させてもらったが、無論城の客室よりは劣る。でもこのくらいの方が彼女は気おくれもしないし何より気楽だった。 「にしてもさー。」 メイは一人ごちた。 ひとりここに残る。 ひとりが嫌いな彼女にとって、寂しい他なかった。  でも仲間たちは、前に進むために様々なルートで城に上がった。  ちらと部屋の片隅にきちんと立てかけてあるステラの愛用の槍を見た。  きちんと磨かれたそれは持ち主の手に再び渡るのを今か今かと待っているようだ。 「・・・丸腰なんだよね、今回。あの子たち大丈夫なのかね・・・・。」  フゥとため息をつくとその槍にそっと手を触れる。  スフィーニで手に入れた大きな錫杖に、コウが手を加えて槍に改良した。  ステラの前に使っていた槍の貴石を持ち手に飾り、立派な直槍にして彼女に手渡した時、彼女はこれがないと私の槍という気がしないと微笑んだ。 ―早く持って行ってあげたい・・・。 あたしが身の回りのことをもっとできれば代わりに行ってもよかったのだが・・・ (※格闘技なので素手でも問題が無い) ―あたしの役目。それはプシュレイの宿でしばらく宿泊客から情報を集め、それから・・・ステラ達の武器を持って遅れてベルヴァンドに侵入することだ。 ―問題なのがその・・・武器を持って侵入するコト。それをどうするかだ。只でさえ検閲が厳しいのに。 ―あたしの特技は格闘技と踊りしかない。 女の武器も自信ないことはないが、これは最後の手だ。  そう思いつつ槍から手を放してメイは部屋から出た。黒い髪はツインテールではなく編みこんで降ろしている。  ニットのロングワンピースを着たメイはいつもの活発で華やかな感じではなく、少しシックで大人びていた。 その日の昼下がり。 ちらほら客が宿に入ってくる時間だ。  ロビーのオッドマンに腰掛けてメイはぼんやり客を眺める。  スザナに向かうキャラバンが多い中。身なりの良いゴトラを被ったひとりの男を見かけた。 ―え・・・? メイはついその男を目で追ってしまった。 甘い顔(マスク)のその男は、メイの視線に気が付いたようだ。 男はその視線を不審がらずに、爽やかな 笑顔で彼女のもとへやってきた。 「・・・おやおや。君は・・・?」 「あ・・・やっぱり?」 砂漠を超えてきたゴトラを被った男性は。 なんとメイがゲランで一夜を共にした男性であった。 名も聞かず、宿を先に出たのはメイであった。彼女の良く言う後腐れのない関係であり、そこで終わりだった筈だが・・・。 ☆ ☆ ☆ 男の名はキリアン。 流浪人だが。若くしてかなりの財産を持っている豪商らしい。 メイは素性を言ってなかったが、彼はなんと彼女を知っていた。 「あの夜、南のエストリアの出身だって君から聞いて。ああー人気の舞姫が旅に出たと エストリアの劇場に寄った時に耳に挟んだことを思い出したってわけだ。」 「良くあたしだってわかったわね・・・。」 「君の肖像が描かれたブロマイドが売られていたからね。」 ―旅に出てしまえば素性はバレないと思ったけど、そうもいかなかったんだね。 メイは苦笑した。 「君とまた再会できるとは何かの縁だね。仲間と一緒に旅をしているって。でも君一人の様だが・・・。」 「そういうあなたこそ、どうしてプシュレイへ?」 メイは質問を質問で返した。 相手の出方次第で自分の答えを言うか言わないか決めようと思ったのだ。 「・・・ベルヴァンドへ商売しに。」 「・・・ベルヴァンド?!」 メイはつい前のめりになった。 「でも、検閲が厳しいから城内に入るのは難しいって・・・。」 「僕は商人ルートじゃ名が知れているし、特に武器も扱っているからベルヴァンドでは重宝がられている。」 「ってことはあんた何度か・・・そこへ?」  キリアンはフッと薄く笑うと頷いた。 「まぁね」 「・・・・・・・。」 しばらく沈黙が続く。 メイは迷っていた。でも、渡りに船のような気がする。 「どうやら君は、ベルヴァンドへ行きたいようだね?」 メイは顔に出やすい。彼女も十分わかっていた。もうどうとでもなれとメイは首を縦に振る。キリアンはその様子を窺ってから、口を開いた。 「ここじゃあれだから君の部屋か僕の部屋で、話さないか?」
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