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 メイはキリアンを自分の部屋に招き入れた。  一度寝た男だ。別に自分個人としての警戒心はない。しかし、仲間達が城に忍び込んでる今、あらゆる言動を注意するに越したことはない。 「へぇ。いい部屋に泊まっているんだね。続き部屋(スイートルーム)じゃないか。」 「まぁね・・・(イーノック卿の計らいだし)ていうかあんたこそ、ゲランで一番の高級宿に泊まっていたくせに何言ってんの?羽振りよさそうなのにさ。」 「あれは、君に出会ったからさ。カッコ付かないだろ?女性と一夜を過ごすのに。」 キリアンはゴトラを脱ぐと微笑んだ。 ああ、この笑顔どっかで同じようなの見たことある・・・メイはそう思った。 ―誰だっけ・・・。あぁ。リーちゃんの幼馴染のゾリアだ!自分の見た目やら財力やら 才能に自信のあるタラシの笑顔だね。 「君の言うとおり僕はまぁ羽振りがイイとは否定はできない。でも僕は商人だ。 商売人は締める所は締める。そして世の中でどんな武器が必要とされているか見極める先見の明も必要なのさ。話それたけど、今晩の僕のここでの宿は普通の部屋さ。」 「ふーん。」 メイは部屋の椅子に腰かけて生返事をして 話を切り出した。 「で?別室に移動したってことはあたしの希望を叶えてくれるってこと?」 キリアンは自分の望みをもうすでにわかっているはずだ。でも絶対なにかと交換条件だろう。彼女はキリアンの答えを待った。 「もちろん。縁があるってことだしね。でも僕は商人。自分にメリットのない協力は しないよ?」 ―やっぱりね・・・。 メイはじっと彼の瞳を見つめた。 「だけどその前に。どうして君がそこへ行きたいのか説明してくれないと話が始まらないだろう?」  ☆ ☆ ☆  コウとダンは根気よく宿舎の周りを偵察した。  たまに見回りの兵士を見かけて息を潜めて隠れるもどうにか見つからずにちょうど宿舎の出入り口の真裏に差し掛かった時。誰かの人影が見えた。 ―まずい。  二人は咄嗟に息を殺して再び伏せる。 物陰からそっと伏せた態勢でその人影を見ると、それはかなり注意深く周りを見渡し、しばらくすると忽然と消えたのだ。 「!」  コウとダンは顔を見合わせた。  そして頷いて伏せた態勢のまま、そちらへ慎重に近づいた。  この辺りは宿舎の裏手であり、腰くらいまでのコノテシガワが若干植えられており、後ろには塀が そびえ建っている。見回りなんて必要ない場所なのに人影が、何故?と思ったが・・・二人は確信した。どこかへ続く出入り口があるのだと。 案の定。 草むらの中に穴が掘られていた。覗き込むと梯子がある。二人は一瞬躊躇したが意を決してその中へ潜って行った。  掘道は深いが梯子はしっかりしている。 梯子の縄を握りしめながらコウはうっすら汗をかいているのを感じた。 ―僕らは無茶をしているのか・・。 自分自身は戦いに秀でているものではない。 只あるのは 己の知恵のみだ。  ☆ ☆ ☆ 一方控室で休んでいたステラだが・・・。 誰かが部屋に入ってくる物音で気が付いた。 扉の方に目をやると、もちろんずっと気にしていたキャロルだ。他の侍女たちを起こさないようステラは静かに起き上がる。 「ステラ・・・!」 「キャロル・・・。ああ心配したわ。何かあったんだね?」 キャロルは頷いて、先ほどまでのことを静かに話した。キャロルの紡ぐ言葉を聞くたびにステラは気持ちが高揚して眠れなくなりそうだった。 ―あの赤毛の隊長様が…私たちが探していた最後の継承者・・・。  ベルヴァンド王への不信感や消えゆく志願兵。キース隊長のように、グレイン隊長も同じように不信感を抱いていた。  ともあれ、二人のカルサイトの隊長が協力してくれるのなら心強い。 やっぱり自分の内なる声は・・・間違がっていなかったのだ。 「ステラ、あなたの直属の隊長様が良い方でよかったわ・・・。」 キャロルが話し終えた後にステラも、先ほどまでの出来事を 話すとキャロルも力強く頷いて、こう答えた。 「とにかく身体を休めて、どうするかは明日決めましょう。」
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