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7
コウとダンが竪穴に潜ってゆくとそこは
地下洞窟のようだった。
「魔物の気配はするけど・・・」
「ああ、もっと奥だな」
何がいるんだろう?奥へ進むにつれて
人の呻き声はだんだんはっきりと耳に届くようになり。恐怖心が無かったわけではない。それ以上に二人は、ここで起きているおぞましい何かを知りたかった。
突き当りを曲がると急に明るくなる。
そこに居たのは・・・!!
「!!!」
二人は物陰から立ちすくむ。
巨大な獅子のような怪物が人を咀嚼していたのだ!!!!
がりっ ごりっ
骨が噛み砕かれ折れる音
むせ返るような血の臭気。
「やめろぉおお!!!止めてくれぇ!!!!!!」
見開く瞳孔・・・それは容赦なく食い散らかされる男どもの最期の叫びだった。
断末魔の叫び・・・それきり彼は人のかたちの無いただの肉片となり、こと切れた。
ほかの男たちの命乞いなど、無論この魔物には届きはせずに、非情に生温かい血を啜り肉を引き裂き・・・捕食してゆく。
目を覆いたくなる光景。しかし、コウは耐えて観察に集中した。
餌食になっている若者たちは抵抗したくてもできないようだ・・・。どうしてだ?カルサイトに入れずとも戦いの心得があるものばかりのはずだ。その上彼らの手にはサーベルなどの武器が所持されている。
なのに、何故為されるままなのか???
瞬・・・間・・・
その魔物がまだ立つ気力のある一人の若者に鋭い爪で襲いかかった。その若者は急に身体が麻痺して動けなくなったようだ。
「・・・ヴォルグ・・・!!」
コウの横にいたダンが急にがくりと膝をついた。腕がワナワナ戦慄して顔面は蒼白している。
―もしや彼は、ダンの!!!!
しかしダンの放った声が、その魔物のおぞましい光景をずっと見守っていた何者かに気が付かれたようだ。おそらくそれは、先にこの竪穴に潜り込んで行った誰かだ。
―まずい・・・気が付かれた!!!
コウは咄嗟に呆然としているダンの腕を引き駆け出した。ここで 捕まったら、自分たちもあの得体のしれない怪物の餌食になってしまう。
―ここは逃げたほうが賢明だ・・・!!!
「ヴぉるぐ・・・ヴォルグぅぅぅうぅぅぅ!!!!!!」
少し錯乱状態になっているダンを問答無用で連れだし、竪穴の方へ急ぐ。そして慟哭が止まないダンをコウは説得した。
「ダン、君の大切な人を助けられない無念さ、気が狂いそうなほどの辛さは・・・僕が君と同じ立場だったらきっと今の君の様になっているって痛いほどわかる。でもこの場で見つかったら僕らも同じ目に遭い・・・何も解決しないままだ。」
「うっ・・で、でもよぉ…あいつは・・・俺の唯一無二のバディで俺の一部だったんだ・・・あいつを・・・俺は・・・助けられな‥かっ・・・」
ダンは項垂れながら、嗚咽を止めない・・・いや止まらないと言うべきか。
コウは構わずにダンの両腕をつかんで揺さぶった。
「とにかく・・!」
コウが心を鬼にして、声を荒げる。
すると何人かの人の影が追いかけてきた。
「逃げよう、ダン。とにかく逃げないと、何もできないまま犬死にだ!!」
***
翌朝、ステラはキースの私室へ向かう。
昨夜のことが、思い出されるが気持ちを落ち着かせ扉を開けるとキースが身支度を整えて待っていた。
「おはようございます。」
「・・・おはよう。あれから眠れたか?」
「ええ・・・。」
ステラは一礼をする。
「・・・早朝、グレインの私室を訪れた。そして君の仲間のことも聞いた。グレインと君たちは、特別なつながりがあると知ったよ。」
「・・・。」
「グレインは私物のペンダントを見せてくれた。」
「!」
まっすぐに見つめる彼の眼差し。
もう隠しきれないと思いステラが観念したのを先回りしてキースは言葉をこう放った。
「そなたは、かつてのリストンパークの王女 オーキッド姫のゆかり者・・・だね?」
ステラは頷いた。
「はい・・・。昨日仰ったとおり、私は母オーキッドの娘です。」
キースは薄々感じていたことが真実と知って腑に落ちたようだが、複雑な心境は隠せないようだ。
―祖国襲撃の後 姫は誰かと婚姻を結び子を為していたのか・・・??
しかし、あの状況下で姫は何かを背負って前を向いていた。
―彼女は姫と誰との・・・娘なのか?
「そうだったのか。そなたが似ているのは無理のない話だな・・・。姫は・・・生きて子を為していたとは。」
「母は、亡くなりました。」
「・・・!」
今度はキースが黙る番であった。
「私にペンダントを託して。」
ステラが懐から出したそれは・・・かつてオーキッドが城の兵士だったキースに一度だけ見せてくれたペンダントと同じものであった。そして、グレインも同じものを所持していたのである。
―何かが、動く。
たくさんの思惑が交錯する中で・・・・キースはそう思わずにはいられなかったのだ・・・。
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