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 アゼル長官は焦っていた。  昨夜この城の地下にある秘密を侵入者に見られたこと、そしてその者らを取り逃がしてしまったことだ。  何としてでも取り逃がさず同じように食わせてしまえと側近には命令を出したが、まだ捕らえたという連絡は入らない。  地下にいる秘密の獅子―レグルス―は、半月後のカルサイト剣舞の披露目の時に、剣闘士としてカルサイトの騎士団員を闘わせ愉しませるためのモノ…。  これの仔のレグルスは王の間に誰も入らせないために一頭置いてある。  剣闘士など今は禁止されているし、 そもそも大昔、獣と罪人を闘わせて愉しんだという残酷な娯楽である。 しかしアゼルは、こう目論んでいた。  何れ全世界を支配するために、ここ数年で べルヴァンド王子は騎士団の強化を推奨してきた。  しかし古いカルサイトの隊長の中にはそれに反発する者もいる。 「まず国家の民の安全を」と。 まさしく邪魔な存在だ・・・。 さて、見せしめも兼ねてどの隊をあのレグルスの餌食にするかな…。 元々ベルヴァンドは世界最大の軍事国家だ。 全世界を征服して何が悪い…? そして、現王は所詮今は見る影もない傀儡・・・!! アゼル長官は含み笑いを浮かべた。 焦りを落ち着かせるために。  ☆ ☆ ☆ ステラがグレインの私室の中に入ると キャロルと一緒に巨体の男が立っていた。 燃えるような赤毛が印象的だった。 ステラは一礼した。 「キャロル殿…」 「ええ。隊長様、彼女が…」 二人は初めて対峙した。 「…うっすら覚えている。あの時スザナの大会で撃たれた・・・。」 「え…?」 ―どうしてグレイン隊長はそのことを知っているの?  ステラは驚きを隠せず目を見開いた。 「忝い。初めて言葉を交わすのに…。 私がカルサイトに入ったきっかけは4年前のスザナでの選抜大会だ。君が準決勝で撃たれたことはよく覚えている。その後、私の準決勝の試合は繰り上げで決勝に代わり私は勝ち進んで今ここにいる。よく無事で…。」 ―まさかまさか、当時最後の継承者がすぐ近くにいたなんて。時期ではなかったのけれども、仲間は近くにいたのだ! そう、リーディだって、あの時・・・。 ステラも感無量と言わんばかりに、熱いまなざしでグレインを見つめて頷いた。 「まさか君だったとは…私も準決勝を見ていた。自分にあたるかもしれないと思ってね…。」 グレインも懐かしそうに目を細めると頷く。 「ともあれ、昨晩キャロル殿からもキースからもいろいろ聞いている。ベルヴァンド王の様子がおかしい。キース同様この国の行く末が不安だ。」 そして、半月後のカルサイトの剣舞の披露目の時に、姿は見せずとも王が観覧するとのことだそうで。昨日、獅子の様な怪物に引っ掻かれて毒に侵された話も聞き、グレインは続けてこう言った。 「その半月後の剣舞の時に何かが起きそうな気がする。私が昨日直談判をしに王の間に出向いて、引っ掻かれ、毒に侵されやむを得ず立ち去る時・・・この際我々に反発する者の隊と、この獅子を闘わせるのも面白そうだと 聞こえた気がしたのだ。」  ☆ ☆ ☆  ユリエル(隊長)は、リーディを見て少し驚いたようだった。 「・・・何か?」 彼は我に返ってリーディを見て言葉を紡ぐ。 「いや、なんでもない・・・。」 そして気を取り直し、この後の説明をした。  ユリエルが戸惑ったのは、 彼の顔だちも髪の色も全然違うのだが、亡き同期エジット元長官に雰囲気や立ち姿が瓜二つだったのだ。  しかも、この男の腕前を見る為に隊の騎士の一人に手合わせをさせてみると、 剣捌きまでもそっくりであった。 「勝負あり!」  金の髪の彼は、相手を追い詰めて手に握られた細剣を薙ぎ払う。  騎士たちから歓声が上がり、ユリエルは彼に問うた。 「見事だな。我が隊に入れるだけの腕前だ。剣術はどこで・・・?」 「亡き親の手習いです。」 リーディはユリエルの方をあえて見ずに自分の細剣を鞘に納めた。元来勘がいい彼も勘付いていた。 ―この隊長は、俺の父上を恐らく知っている・・・。 まだ正体を明かせない彼は、自然と眼を合わせない行動をとってしまった。 ―とりあえずうまくカルサイトに入れたが、ステラ達はどうしているだろうか・・・。 胸騒ぎを感じながらもリーディは平静を装った。
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