4話

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「私、雅人に謝らないといけないの」  二人でベッドに腰かけたところで、私は切り出した。相手が戸惑いの表情を向ける。 「なに?」 「あのぅ、社員旅行のときのことなんだけど……」  彼はそんな前の話とは思わなかったらしく、不思議そうな顔をした。  私はためらったが、意を決して、あのとき自分が口にした『帰りたくない』の真相を話した。  耳を傾けていた雅人が目を見開き、やがて色を失った。私が語り終えたあとも、思わぬことに言葉が出ないようだ。  いまさらだと承知しながらも、私は謝罪した。 「ごめんなさい。ほんとうはあのとき説明するべきだった。こうして告白したところで、取り返しはつかないんだけど」 「……じゃあ、あの夜、想いが通じたと思ったのは俺だけ?」 「ごめんなさい……」  雅人は動揺して首を左右に振った。 「だとしたら俺は……かすみが望んでいないのに、強引に抱いてしまった?」  そして頭を抱える。 「俺は……なんてひどいことを」 「違う!」  私は相手の袖をぐいと引っ張って、彼の顔を上げさせた。 「ひどいことをしたのは私。あのとき雅人をとどめて、先にあなたのことを知るべきだった。だから、先走ったのは私なの!」  袖をつかんだまま、うつむく。 「雅人に見合うぐらい気持ちがふくらんでいたわけじゃないのに、応じてしまった。でも、信じて。触れられるのがすこしでも嫌なら、部屋についていかない。抱きしめられたら、離れたくないと思った。あの瞬間は、あなたのことしか考えられなかった……!」 「かすみ……」 「それでも私は、雅人の気持ちを踏みにじったのかな……」  目を向けると、雅人は視線をさまよわせた。 「分からない。どうすることが正しかったのか」 「いまさらこんな話をして……ごめんなさい」  私が手を離すと同時に、彼がこちらに向き直った。 「教えてほしい。かすみのなかであの夜は、どんなふうに残ってる? 俺に対して申し訳ない、っていう気持ちを除いたら」  私は改めて相手を見つめる。雅人が穏やかな眼差しを注いでいた。  それに促され、すこし考えてから答えた。 「雅人と日。その前から顔見知りだったけど、一緒に庭を散歩するうちに、ほかの仕事仲間とは違う存在になったんだと思う」 「あのときの選択を後悔していない?」 「――うん。あの日の私は、自分に対して誠実だった」  彼はホッとした様子で笑みを浮かべた。 「かすみにとってひどい出来事でなければ、それでいい。想いが一致していても、かすみの心をないがしろにしたら、俺は自分を許せない」  そして落ち着いた声でつづけた。 「あの夜、俺たちの気持ちはひとつではなかったのかもしれない。でも、小さな灯がともったんだと思う。だからいま、二人でいられる」  私がまばたきすると、応じるように雅人がうなずいた。 「きっと俺は、かすみともっと話をするべきだった。ゆっくり順を追って、関係を深めていくべきだった。でもそばにいるなら、これから取り戻せる。他人の正解なんて、意味がない。それが道を照らしてくれることはない。自分たちがどうしたいか、だと思う」 「雅人……」  彼がグイッと抱きしめる。その腕のなかで、私は肩を震わせた。 「私に……呆れてない? 私のこと……嫌いになってない?」 「分かってるくせに。俺は、かすみが大好きだ」  ハッキリ告げられて、感情が決壊し、私は次々と涙を流した。 「私……雅人にどうしても言えなかった」
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