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先行き不透明な関係がつづく。いや、この状態を「つづいている」と表していいのか分からないけれど。
私はぎこちない態度を取っているくせして、雅人からメッセージが入ったり会社で声をかけられたりすると、ホッとした。
こんなの、相手の優しさに甘えているだけなのに。
ともに過ごす機会がなくなると、一日一日が気が遠くなるほど長かった。
一緒にいるときは「時間がゆっくり過ぎればいいのに」と思ったけれど、実際にそうなってみると、途方に暮れる。
かつて彼とベッドに潜り込めば、「もっとお喋りしたいのに」と思っても、すぐ睡魔に襲われてしまった。
いま、なかなか寝付けない日々になり、以前の自分がどんなにリラックスしていたのかを実感する。
小さな不満の数々は、幸せのなかでの、たわいもないわがままだった。いまとなっては、ただまぶしい。
ついこの間まで、すぐそばにあったもの。それが、あまりにも遠い……。
こんな状態を維持しても、明るい未来なんてこない。彼を苦しめるばかりだ。
それでも雅人は、決定的なことを口にしないだろう。
私が、解放してあげなければ。
一度きちんと話をしなければならない。自信を失って、一緒にいることがつらい、と。
雅人のことだから、「気持ちの整理がつくまで待つ」と言ってくれるかもしれない。私は揺らぐに決まっている。
だが、いつまでも悲観的な顔をしていたら、さすがの彼も見放すかもしれない。
「分かったよ。かすみにとって俺たちの関係は、どうしても取り戻したいものではないってことが」と……。
自分で想像したくせして、そんなことを言われたら立ち直れないと思った。
本当はすがりつきたい。エゴのままに雅人を縛り付けたい。
けれど表面的に修復しても、きっとまたズレが生じる。彼に大切にされて幸せに浸り、そして不安になるのだ。
雅人に追いつけない自分は、いつまで彼の隣にいられるのか。
離れないかぎり、何度も沈み込む。
そのたびに彼を振り回すぐらいなら、ここで終わらせよう。
どのみち傷つける。それを、たった一回にする。なにかできるとすれば、これだけ。
私は誰にともなく問いかける。
じゃあ、ほかにどんな道があるって言うの?
* * *
それから一週間、私はなにも行動しなかった。破綻寸前でも、わずかな猶予がほしかった。
向こうから働きかけがあるだろうか、と考えたが、変わらぬ日常がただ過ぎる。
彼もまた、この関係を持て余しているのかもしれない。
八日目は、たまたま振替休日だった。
朝、目を覚ました私は、ぼんやりする頭でケータイをチェックした。着信はない。そうなると予想していたけれど、気持ちがふさいだ。
いや、これでよかったんだ。雅人からメッセージが入っていたら、私は動揺する。だから、希望なんてないほうがいい。
頭では冷静に結論づけるのに、心は淋しがった。
迷いが生じる。なにもしなければ、中途半端な状態でいられるのではないだろうか。
でもそんな選択をしたら、ますます自分を嫌いになる。
いつまでも彼を苦しめる。どこかで断ち切らなければならないのだ。
せめてもの慰めに、雅人の笑顔を思い浮かべようとしたけれど、遠ざかってハッキリしない。
それが現状なのかもしれない。恋しくて、胸が痛かった。
のろのろとベッドから出て、遅い朝食をとり、ぼんやりしたまま洗濯や掃除をした。今日は時間の流れがことさら遅い。
その気になれば読書をしたり、ドラマや映画を観たりするゆとりがあった。けれど、そんな気力は湧かなかった。
ベッドに横になり、ケータイで音楽を流す。そのメロディーさえ右から左だ。
一時間ほどすぎてウトウトしたとき。
不意にケータイの着信音が鳴って、私はハッと覚醒した。
画面を見ると、雅人からの電話だ。出るかどうか逡巡したが、無視することもできず応答した。
「……はい」
『――かすみ、休みの日にごめん。いきなりだけど、いまからそっちの家に行ってもいいかな』
「えっ? えぇと……」
『用事があるなら、このまま帰るよ。そうでなければ、一分だけでも会ってほしい。一方的ですまない。けど、今日はどうしても君の顔が見たいんだ』
「雅人……」
彼の声がやや切羽つまっている。自分の希望を前面に押し出すのは珍しい。
それが嬉しい。同時に困る。顔を合わせれば、また流されてしまうのではないだろうか。
でも今日は拒めない。
私は散々ためらったあと、答えた。
「……いつごろ着く?」
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