2話

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 後日、室賀くんに誘われて、仕事のあとにダイニングバーヘ赴いた。  見た目にもかわいいタパスに舌鼓を打っていたら、彼が申し訳なさそうにつぶやく。 「俺、こういうオシャレな店、慣れてないんだ。なにか失敗したらゴメン」  スマートにエスコートされるのも素敵だけれど、ちょっと居心地わるそうにしている彼を見て、キュンとした。  それでも一生懸命に選んでくれたんだ、と思うと、料理がさらに美味しくなる。 「私も。おかげで、どの味も新鮮だね」  すると、相手はホッとして目を細めた。  初めのうちは、お互いぎこちなかったけれど、同じ料理を楽しむにつれて会話もほぐれた。  それぞれの趣味に話がおよんだとき、二人ともあるロックバンドが好きだと分かり、その話題で盛り上がる。室賀くんがポツリとつぶやいた。 「ツアーが始まったらライブに行ってみたい」 「きっと、楽しく過ごせるね」  つい主語をぼかしたけれど、彼が微笑を浮かべて見つめてくるところからすると、やっぱり『一緒に』なのだろうか。  連れ立ってライブに行くことを想像する。同じものを好きな誰かと一緒なら、より盛り上がるに違いない。  室賀くんがミュージシャンに傾倒している、ということは意外だった。ライブではどうなるんだろう? 表情は変わらなくても、内心ではしゃいだりして?  想像して笑ってしまった。  彼が不思議そうな顔をする。 「どうかした?」 「室賀くんってライブで弾けるタイプ?」 「そんなことはないけど、テンションは上がる」 「いつもとは違う一面が見られそう」 「いや、べつにへんなことはしない……と思う」  私がクスクス笑うと、彼は困った顔をした。  精算時、室賀くんは「自分が誘ったから」と奢りたそうにしたけれど、ここだけは私も譲らず割り勘にした。 「美味しい店を探してくれて、楽しかったから」  すると彼は、照れて笑顔になった。  駅へ向かおうとしたところで、室賀くんがこちらの手を取る。それをつなぐのは初めてではないけれど、予想していなかった私は驚く。  誰かにバッタリ会ったら恥ずかしいが、こうすること自体は嫌じゃない。  歩きはじめた相手に従う。  彼はこういうことが好きじゃなさそう、というイメージを持っていたので、ギャップに戸惑う。  手をつないでいるだけなのにドキドキする。チラッと横顔を窺うと、表情は変わらないけれど、相手も緊張している気がした。  辺りは飲食街のため、いろんな人が行き交う。団体とすれ違うときは、室賀くんは道の端に寄って、私を守ってくれる。  あっという間に地下鉄の出入り口に辿り着いた。  ここから私たちはべつの線に乗る。分岐点で彼に声をかけた。 「ここでいいよ? 今日はありがとう」 「うん。そっちの改札まで行くよ」  つないだ手をキュッと握られる。  やがてこちらの改札までやってきたが、お互い手を離せない。本音を言えば、サヨナラするのは名残惜しい。でも明日も仕事だ。  私は隣人を見上げた。 「私、行ってみたいカジュアルレストランがあるの。次に付き合ってくれない?」 「もちろん」 「約束ね?」  彼は嬉しさを抑えきれない様子で「必ず」と応じてくれた。  そうして離れ、私が「それじゃあ」と言うと、相手はうなずく。  改札を通ったあと、見守る彼に手を振れば、室賀くんは照れくさそうに振り返してくれた。  私はフワフワした心地で、ホームへの階段を下りていった。
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