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翌朝……っていうか昼過ぎ。目覚めると、哲雄は出勤していていなかった。
完全に二日酔い。口の中が粘ついて吐き気もするし、ともかく風呂に入ろうと湯をためた。
水を持って入って水分補給しながら、腰まで浸かって汗をしっかりかく。1時間も浸かるとようやくスッキリしてきて、頭と体を洗って出たらひと心地ついた。
濡れた頭をタオルでゴシゴシ拭きながら、深酒の翌日ってだけの理由じゃなく、気は重い。
だって昨日からのもろもろの記憶はバッチリ残ってる。
哲雄と俺の間の問題は今何一つ解決してないし、何より昨日のことが原因で事態は大きく展開する事は間違いなかった。
俺が何も言わなければ……このまま続けられる……?
いや。このまま続けてどうする。気持ちが無いのに繋ぎ止めて、なんになるってんだ……
でも……頭ではそう分かってても、昨日の夜久しぶりに触れた哲雄の体を思い出して切なくなる。
オッサンになっちまった哲雄に冷めてるはずなのに……そう思ってたのに……
「あ」
風呂に入ってる間に哲雄から電話があったみたいで、代わりに入れたんだろうラインメッセージを開くと、「話したいことがあるから、今夜は家にいて欲しい」って…………読んだ途端に緊張してきた。
いよいよ、その時が来るって。
「話って何?」と打ち込んで、そのものズバリの答えが返ってくるのも怖くて、ただ「了解」とだけ送り返した。
もう気分は最悪。
仕事も手につかず、テレビをつけても内容が入って来ない。
仕方なく、料理をすることにした。
久しぶりに一緒に食べる夕食だし、哲雄の好きなものを作ろうって。
おろしトンカツと千切りキャベツ、ナスの煮びたし、真っ白いご飯になめこの味噌汁。
冷蔵庫を確認して必要なものをメモして買い物に行った。それはなんだか久しぶりに胸がほわっと温かくなるような時間だった。
そんなことすらしてなかった。平日はほんとにバラバラ、土日は俺が出かけることが多かったから、ご飯は好きな時に自分の分を用意するのが当たり前になってて……
もしかしたら……最後かもしれない。
そう考えると、二人で過ごしてきた時間や会話や、形にならない思い出のすべて……確実に俺の一部になっているそれらの大きさが改めて感じられた。
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