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2LDKのこのマンションに引っ越して来たのは、付き合い初めて1年経たない頃だった。 他人と一緒に暮らすのは初めてだったけど、年上で少し強引な恋人、佐野哲雄に半ば強制的に頷かされた形で同棲を決めた。 哲雄は、元々クライアントのひとつである食品メーカーの担当者の上司だった。 グラフィックデザイン、パッケージデザインを主に手がける俺、長谷川夏希の元に来た、新商品のパッケージデザインの依頼。 それが完成も間近という時に先方の都合で変更を余儀なくされるということがあって、担当者と一緒に謝罪に来た哲雄に、俺が一目惚れした。それが始まり。 カッコ良かったんだ。大学時代にアメフトをしてたっていうガタイにネイビーのビジネススーツが映えて。ツーブロックのオールバックヘアに大人の男の色気があってさ。 俺がいわゆる若手で注目株のデザイナーだったからか、隠してはいないセクシャリティは巷では有名で……だから、詫びを入れるならあんたがディナーをご馳走してよと誘った意味を担当者はもちろん哲雄もすぐに分かったみたいだった。 半分冗談。まあ聞き入れてもらえたとして一度食事でも出来ればラッキーくらいに思ってたのに、設定された食事の席で逆にプライベートの連絡先を交換したいと言われて…… それから何度か飲みに行った。 その当時俺は26、哲雄は34。スポーティで爽やかで男らしい哲雄はインドア派の俺にはほんとに眩しくて、関係が濃密になっていく過程も終始ドキドキしてた。 そう……夜の方も、もう何ヶ月もご無沙汰だ。 前はもっと情熱的に求められたのに、哲雄もやっぱり若い子がいいのかとか……ぐるぐる考えたりして。 というのも……ついこの間、ゴミ出し予定のダンボールをガムテープで止めようとして、いつもの場所にそれがなくて、さてはまた哲雄だなと留守中には入らない約束になってる部屋に探しに入った時のこと。 案の定、そこそこ散らかった部屋の中にガムテープはあったんだけど、その時に見たんだ。ベッドの枕元に置かれた若手俳優の写真集を…… 直感的にオカズ本だって分かった。 最近テレビを見ながら、その俳優がCMに出る度に可愛いだのなんだの言ってたし。 いいよ。それは自由だと思うけど……でもそれを悟らせるのは反則だろ? 俺というものがありながら、なんてことは言いたくないけどさ。やっぱり正直いい気はしない。つか、腹立つ。
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