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3#
俺は哲雄にとってなんなの?
一緒に暮らそうってそっちから言ってきたくせに。
優しい気遣いもなし。キスもエッチもなし。ただ一緒の家に住んでるだけ。勝手に俺のタピオカミルクプリン食うし。
「浮気されても文句言えねーっつの」
ベッドにどさりと体を投げ出して、天井から下がるお手製の幾何学模様のモビールをぼんやり見つめた。
小さな脚立に乗ってこれをここに吊るした日。
『やっぱ夏希はすごい。こんなの作れるなんてさ』
『大袈裟だなぁ』
『綺麗だし。オシャレだし。俺、自慢なんだぜ?誰でも彼でも言えるわけじゃねぇけど』
優しいキスと、一緒に暮らし始めた頃のまだソワソワしていた気持ちを思い出す。
懐かしくて……ちょっと切ない。
あの頃の俺は、哲雄とならずっとやっていけると信じて疑わなかった。
俺の周りにはたった1人とずっとうまくいってるヤツなんか数える程で、直接の知り合いって言ったら1組しか知らなかったけど……それでも俺たちは大丈夫だと思ってた。いや、実際うまくやってたんだ。半年くらい前までは。
でも今は……ときめきのない日々が、俺の恋心の息の根を完全に止めようとしてる。
恋が死んだら……俺たちはどうなるの?
一緒にいる意味はある?
それならもう……終わらせた方がいいんじゃねえの……
手慰みにスマホを手に取れば、新しいラインの着信が数件……その中に、最近熱心にアプローチしてくる同業の元カレの名前があった。
松下友郎は美大の同期で、大学を出てから付き合いだした。浮気性に疲れて別れたものの不思議な愛嬌のある男で、今でも時々飲みに行ったりしてる。
ぐらついてる訳じゃない。ヨリを戻す気はないんだけど……でも、このままじゃ俺、ほんとにダメになりそうだよ哲雄。
それでもいい?
あの俳優がいれば、十分なわけ?
ふと、つらつらと続く考え事に廊下の足音が紛れ込む。
哲雄が謝りに来た?っていう浅はかな期待が瞬間的に生まれて、でもすぐトイレだって分かってガッカリ度は2倍。勝手に期待したくせにさ。
そう……もうそろそろ本気で限界なんだよ。
哲雄は平気なの?
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