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友郎からのラインは、いつもの飲みの誘いだった。 10回誘われて1回乗ればいい方。それは仕事が忙しかったり、めんどくさかったりって理由が半分以上を占めたけど、残りはやっぱり哲雄に対する遠慮があったから。 一緒に飲むだけで疚しいことは何もないけどやっぱ元カレだし、向こうはよりを戻したいって下心を隠してなかったからさ。 でも今日のタイミングは── 『OK。バナナボートに7時ね』 『マジ!?やった!ラジャー∠(*^ー^*)』 家に居たくなかったし、哲雄に当てつけるみたいな気持ちもあって、オッケーした。 出かける準備のために部屋を出ると、ちょうどトイレから出てきた哲雄と鉢合わせた。 久し振りにまともに正面から顔を見た。トクンと音を立てた胸で、恋の生存確認。辛うじて、だけど。 「今日、飲みに行ってくる」 「ん」 誰と?とか。何時に帰ってくる?とかさ……前は聞いてくれたのに。 リビングに戻ってく後ろ姿を見送りながら、向こうの恋はもう死んでんのかもな、とため息をついた。 腹立つ…… 確かに惚れたのは俺の方が先かもしんねーけど、俺だってモテるんだからな!お前がいなくなったって代わりはいくらでも──そう考えて……見ないことにしてた未来がちらりと脳裏に翻った。 哲雄と別れて一人暮らしに戻る俺。 一瞬胸に広がった寂しさを俺は確かに感じたけど、それはきっと郷愁に近いものに違いないと頭を振って、見えない隅の方へ追いやった。 ショットバー『バナナボート』は、俺と友郎の行きつけだった。 哲雄と付き合い始めてから哲雄もこの店の常連客だったってことが分かった時はそりゃ驚いたけど、でもこの世界は広いようで狭いから。 「おーっす夏希!ひっさし~ぶり!」 店の入り口で後ろからガッと肩を組まれて、友郎の相変わらずの軽さに苦笑しながらも、今日はなんだかそれが嫌じゃない。 「痛ぇよ。ムチウチになったらどーすんだよ」 「ん?あれ~?どした。元気ねぇな~」 友郎が下から覗き込むようにしてきて、思わずその顔を手の平で押す。 「元気だよ。顔近づけんな」 「隠してもムダ~!ん、よーし今夜は俺が元気を注入してやっから。この後、イッパツどーすか」 「お前の頭ン中、そればっかな。ほら、入るぞ」 友郎の腕から逃げるようにして店に入った。いつもなら笑って流す口説き文句も、今日は俺の一部を揺すぶってる。なんか……ちょっと元気を貰ってた。かつては体を重ねた男が俺の中に残した、懐かしい愛着に。
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