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「なぁ~……哲雄クンとサヨナラして、俺とやり直してよ。いろんなヤツと付き合ったけどさ、やっぱ夏希くらい合うヤツっていないからさぁ」 「お前のビョーキは死ななきゃ治らねぇからヤダ」 「あちこちつまみ食いしたって、お前が一番なんだって。ご飯みたいなもん!おかずがいっぱいあったってさ、ご飯がなきゃ」 「嘘でももう浮気はしないって言えねーのかよ。言うに事欠いてご飯って……」 呆れつつもなんか笑えて、ニヤニヤしながら付き合ってた頃を思い出してた。 性格に見合った軟派なナリは、それでもよく似合ってておしゃれ。着るものに何のこだわりもない哲雄とは大違い。 同業なだけに話も合う。割ともんもん考えるタイプの俺は、なーんにも考えてない友郎といると気楽になれた。 哲雄は……何かは考えてるけど口には出さない。前はそれを頼り甲斐があるって感じてたけど、今はただ、遠い。 「マジなんだってば。マジで夏希が好きなの。別れてからもずっと好きなんだよ。外見も性格も一番好み」 友郎は思ってることをすぐに口に出す。軽薄なんだけど、嘘は言わない。だからかな、なんか憎めないのは。 哲雄から好きって……聞いたことあったかな。 もちろん好きだから付き合いだしたんだろうけど。でもはっきりした言葉で聞いた記憶ねえし。 それほど言葉で聞きたい方じゃないけど、夜の時間が無くなって行為で知らされなくなった今じゃ、そんなものでもなきゃ形のないソレの在りかを確かめる術がない。 この店のカウンターに哲雄と並んで座ったのはいつの事だろう? 俺に向けられた明らかな情熱を感じた、あの日々。 「夏希ちゃん。ちょっと間、挟んだ方がいいわよ」 シゲさんがぴかぴかに磨かれたグラスにお水を入れてくれる。 確かにちょっとペースが早いかな。もうすでにふわふわした酔いを感じてて、でもそれは久し振りの解放感。ビールと同じくこだわってる水は程よく冷たく喉を潤して、するすると流れてった。 友郎はさっき店に入って来た友達と挨拶ついでの話が盛り上がってて、騒がしい男から解放された俺はそういう意味でもしばし休憩。 すると、正面でグラスを磨いてたシゲさんが、ふと何かを思いついたように微笑んだ。 「哲雄くん、お仕事大変なんじゃない?今の会社に移ってから、ここにも大分来てないのよ」 世間話のひとつでしかない口ぶり。でも俺は、初耳過ぎて固まった。 会社を移った??何のこと?? 俺のその様子に、シゲさんは珍しくはっと困った顔になって「やだ、ちょっと待って」と慌ててる。 「ごめんなさい。まさか夏希ちゃんが知らないとは思わなくて……」 「哲雄、転職したの……?いつ頃?」 「3,4ヶ月くらいになるかしら……詳しくは分からないんだけど、前の会社で起きたトラブルの責任を取らされたって言ってたの。でも彼、優秀だからすぐに声がかかってね。再就職出来たみたいだけど、高待遇の分キツイって噂の会社でね」 まったく気づかなかった。欠片も。ショックだった。何も知らされてないなんて……なんで?俺が年下だから、相談相手にもなんないわけ?
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