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「夏希」 遠くで、哲雄の声がした。 重いまぶたを上げたら、おかしな光景が目に入った。 モップを持った店員と、友郎と、まるで家着の哲雄。 3人が何か喋ってる。 店内の音楽は止まっていて、視界には客が一人もいない。 体をゆっくり起こすと、視界がぐわんぐわん揺れる。 3人がこっちを見た。 状況が分からないまま、何故か哲雄ただ1人を見つめてた。 「夏希。帰るぞ」 近づいてきた哲雄が、俺の片腕を肩に引っ掛けるようにして体を支え、立ち上がらせる。 びっくりするくらい足に力が入らなくて、ゆっくり歩き出した哲雄についていけなくて、歩かせることを諦めた哲雄は俺をおんぶした。 広い背中に体を預けて運んでもらうこの感覚……まるで子供に戻ったみたいな…… 「哲雄のばかぁ~~……」 「迎えに来させといて馬鹿はないだろ」 「プリン食うしぃ……屁えこくしぃ……」 「プリンは明日買ってくるから。屁は我慢しろ」 哲雄が乗ってきた白のランドローバーの後ろに寝かされて、ばん、とドアが閉まると、薄くスモークがかかった窓の向こうに哲雄と友郎が話してる顔が見えた。 内容は分からない。でも友郎があんまり見ない真面目な顔で哲雄に何か言ってた。 それから運転席に乗り込んだ哲雄の重みで車がとうんと揺れ、エンジンがかかって滑らかに走り出した。 車の匂いと振動と哲雄の気配があっという間に眠気を誘って、家に着くまでの記憶はまるで無い。 ただ駐車場から家までおぶってもらった間だけはうっすらと目覚めていて、肌触りのいいロンTの布越しの哲雄の温みを感じていた。
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