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リビングのフロアに横になって頬杖をつき、スエットの中に手を突っ込んでボリボリとケツを掻く。 さして面白いとも思えない番組を見て笑ってる哲雄のその後ろ姿は、紛うことなきオッサンだ。 そりゃ哲雄ももう38だし、仕方ないけど。けどさ……あまりにもたるみ過ぎだろって、最近思うことが増えてきた。 同棲生活ももう3年になるし、俺も三十路に入ったし、別にいつまでもラブラブでとか……そんなことを思ってるわけじゃないけど。でも前はこんなじゃなかった、もっと気を遣ってくれてたって思いがどうしたって消えない。 「あ……哲雄、俺のタピオカミルクプリン食った?」 冷蔵庫を開けて、目的のものが消えているのを見て思わず咎める口調になった。 哲雄はさっきと同じ体勢でテレビから目を離しもしないで「あー。うん」って適当な返事。 「なんで勝手に食うんだよ!」 「るっせぇなぁ……しょっちゅう食ってんだから1個くらいいいだろ」 たかがプリン、だと俺も思うよ。でも俺の好物だって知ってるのに……最後の1個だったのに。 前は美味しいと評判の店を見つけて買ってきたりしてくれたのに、勝手に食った上に悪かったなって素振りもないってさ。 結構本気でムカつく。食い物の恨みは恐ろしいって知らねーのかよ。オッサン。 不貞腐れたまま嫌味みたいに牛乳をグラスについでリビングのソファに座ったら、そこはかとなく臭くて…… 「哲雄、屁ぇこいた?」 「うん」 くっさ!最悪!!もう、なんなんだよ!! イライラは頂点に達して、でも生理現象なんだから仕方ないって思う気持ちと、プリンなんてまた買ってくればいいって気持ちと、俺だってオッサンと呼ばれてもおかしくない歳になってんだ、オッサンはこんなもんだって気持ちが自制を促して……結果、牛乳を入れたままのグラスをキッチンに置いて、自室に引っ込んだ。 一応、食べたかった、飲みたかった気持ちを台無しにされたっていう無言アピール。 ま、ちらりともこっちを見なかった哲雄には、全く効果があるとは思えないけど、そこは気が済むか済まないかの問題。 それで気が済んだのかって言われたらそうじゃねーけどさ。
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