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演壇にて。 ―おかしい、ユリエルの奴目何を・・・!!  第四番隊の様子がおかしいとアゼル長官は気づいていた。  騎士が一人もレグルスに攻撃を仕掛けようとせず、レグルスの攻めもひたすら避けている。レグルスも流石にこの膠着戦で、体力とスピードが落ちてきていたのが覗える。 そして何よりも・・・。 「・・・何だ?この闘いは・・・興を削ぐ・・・。血沸き肉躍るモノではないな・・・。」 瞳の虚ろなベルヴァンド王が呟く。 アゼルも頷き、従者に何やら命を下した。 ―これで、ユリエルの隊も・・・血祭りに上げられようぞ・・・。 アゼルは闘いの様子を再度見つめて残虐な笑みを漏らした。 ☆☆☆ コロシアムの袖で喧噪の中、二人の侍女が対峙している。 「・・・ごめんなさい、キャロル。無謀だと分かっているけど トルデォンを唱えれば、助けになると思うの・・・。」 しばらくお互い、険しい表情で見つめ合っていたが、ステラが口を開く。 「・・・ステラ・・・。」 「リーディが、カルサイトがあんな状態だなんて私は見過ごせない。それにキャロル、どうしてそこまで必死なの?・・・何か、隠してない?」  ステラは穏やかなキャロルの必死の阻止を怪訝に思っていた。彼女の表情はとにかく心配でたまらないと言った風である。 「・・・・・・!」 「ごめん、キャロル。」  キャロルが虚を突かれて怯んだ隙に、ステラは少し乱暴にキャロルの掴んだ手を離させて、演舞場の出入り口へ向かって走りだした。 「ステラ!!」 ―やっぱり何か、隠しているんだ・・・。でも、今はそれどころじゃない!!  キャロルに少しだけ乱暴にしてしまったこと、隠し事をされていたことで心がちりりと痛んだ。けれどもステラは構わず走った。レンガ床の廊下の数メートル際に日の光が見える。コロシアムへの出入り口はもうすぐだ!!  そして、出入り口の憲兵を力ずくで払い除けて、ステラは剣舞場へ躍り出る。 彼女の見た光景は・・・  先程よりもいきり立った獅子が、第四番隊の騎士たちに牙を剥こうとしている所だった・・・。  その瞬間、ステラは更に自分の能力が再び覚醒するのを感じた。身体が光帯びて 瞳が深い紫色に変化する。  彼女は天高く掌を掲げルーンを詠唱し始めた。追いかけてきた憲兵も、彼女の身体から 溢れ出るエネルギーにたじろぐしか無い。 ―侍女が演舞場内に侵入した模様― 演舞場で整列していた他のカルサイトの隊も さすがに気がついたようだ。 無論、 キースもであった。 驚いた彼はすぐさまステラのもとへ駆け寄って 声を掛ける。 「 君は一体何をしているんだ!!」  そんな呼びかけも余所に、ステラは深く色づいた紫の瞳でちらりとキースを一瞥して、 すぐに対象物―レグルスーを目掛けて呪文の詠唱を続けた。先ほどまで晴天であった天候が急に暗くなる。  キースはいつもと様子が違うステラに一瞥されただけで、ぞくりとした。 ―彼女は・・??―  キースは既視感を覚えた。それはまだ十七年前、彼が若きリストンパークの兵士であった頃、祖国を襲撃されたあの日に見た・・・魔性・・・??  彼はただそんな、ステラの様子を見守るしか他ならなかった。 誰にも彼女を止められない…!!  獅子は二手に分かれた第四番隊へ突っ込もうとしていた。   先ほどより一層いきりたってしまっているのは、アゼルに命じられた部下が、興奮剤である薬草を塗りこんだ矢を、レグルスに弓で放ったからである。 ―急に空が? リーディは突然の空の異変に気が付き まさか、と思った。こんなことをできるのは、彼女しかいない。自分のよく知っている 彼女でしか…。 ―ステラ…どこにいるんだ? 脂汗を額に浮かべて彼がそう心の中でごちた矢先、 どぉんと轟音が鳴りレグルスに雷光が命中し、それはぎゃんと呻き巨大な躰を 倒伏させた。危機一髪、第四番隊はレグルスの攻撃を免れたのだ。 一方ステラは 魔力を放出して身体中の力が抜けてゆくのを感じた。 ―まにあっ・・・た。 身に着けている滋養薬を内ポケットから取り出そうとも、身体が言うことを聞かない。フラフラになりながらも体勢を立て直そうとするがすぐに何人かの騎士に取り囲まれる。 「この侍女は…!」 その中の一人、第一番隊隊長のザックが訝しげにステラを見て気が付いた。 「勝手に侵入してこのようなことを… 捕えよ!!」 「待て。」 グレインが制止してステラを抱き上げる。 「貴様!!」 ザック隊長は声を荒げて抗議しようとしたが、グレインが凄味のある形相で睨み返してこう答えた。 「この侍女は 第二番隊のキースの専属侍女だ。 すべてはキースに責任がある。」  グレインはアゼルのところにステラが引き渡されるのを防ぐために。急遽キースに振ったのだ。しかし当のキースは狼狽えた様子だ。 「キース?」  そのキースも一部始終を見ていたのだが、真っ青な顔でグレインが抱えている彼女を見つめているだけ。微動に震えているようであった。  そこへキャロルが駆けつけて、すぐさま滋養薬を彼女に飲ませた。 ステラの瞳がかすかに動く。 「・・・キャロル」 「・・・まだ話してはダメ、じっとしていて」 咎めるような口調であったが、キャロルの声色は優しかった。
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