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6
ステラは頷いて、槍を受け取る。
そして立ち上がろうとした。
「立てるか??」
グレインが支えながらそれを手伝った。
彼女はありがとうと小さく呟き、しっかりと地面に立った。
「この格好では心もとないから」
コウが胸当てと鎧の一部であるソルトレット(鉄靴)とグリーブ(脛当て)のみ持ってきてステラに渡す。
「大丈夫。十分だよ」
ステラはドレスの裾を太ももあたりまで千切り、露わになった脚に脛当て装備し、パンプスから鉄靴に履き替える。そして両腕袖も同様に切って胸当てを装着した。
その様子をしばし見届けてからメイは喋りだした。
「詳しいことは後でさ、とにかくあの化け物を退治しないとヤバそうだね、リーちゃんたちちょっとやられてしまったよーだしさー。」
見るとリーディ達第四番隊が、レグルスの攻撃によって隊列にまとまりがなくなり
バラバラになっている。
「行こう、メイ、コウ。キャロルも・・・そして・・・」
「相分かったステラ。拙者も同行する。」
グレインが心得たように頷いた。
☆☆☆
リーディはほかの騎士たちの様子を気にしつつレグルスの様子も注視していた。
―今のところ大人しくはしているが。
そして、あの馬車を見たとき、なにがなんだか・・・正直あっけにとられたが、
メイ・・・すげーな。この化け物を諫めてしまったんだものな。
たぶん、皆平気だ。ステラもトルデォンを唱えたといえども、皆がいる。もし倒れていたとしてもキャロルも傍にいるはずだ。
・・・そこまで考えていると突然誰かに彼は声をかけられた。
「新入り、怪我は??」
声をかけてきた主はユリエル隊長であった。
「大丈夫です。問題ありません。」
「貴様の見立ては間違ってなかったな。多少何名かが負傷したがまだ防御に徹していたので持ったようなものだ。」
隊長はリーディの機転を称えた。それに対して彼は口を閉ざした。
「警戒するな。この状況で私にだって貴様がただの見習いでないことは解っている。
このレグルスの様子と、どうやら揉めているような王のおわす演壇・・・・謎の侵入者。」
「・・・。」
「噂をすればグレインが、侵入者たちを引き連れてこちらにやってくるな」
「グレイン・・・!!」
リーディはつい、反応してしまった。
―最後の仲間と・・・ついに・・・。
気づくと薄絹纏った艶やかなメイの横に立つ、屈強なカルサイトの隊長がいた。
赤く燃えるような頭髪。そうそれは・・・・探していた最後の封印を解く者・・・!!
「リーちゃんお待たせ☆」
メイがウインクするとグレインは一礼した。
「リーディ」
いたずらっ子っぽく笑うコウは、ブロードソードを手渡しながら言った。
「ちゃーんと偵察して、姉さんと合流できたでしょう?」
抜け目のない笑みをたたえて、彼もウインクする。
傍らにキャロル。
キャロルはリーディを安心させるために素早く小声で囁いた。
「・・・ごめんなさい、ステラのトルデォン止められなかった。でも、滋養薬を飲ませて治療したから心配しないで。」
「・・・ん。」
リーディは軽く頷いて、キャロルに瞳で微笑み返す。そして、当のステラは・・・・。
勇ましく、槍を携えてリーディを見つめていた。
二人は言葉は交わさず、ただ、再会できたことで安堵で胸がいっぱいだった。
特にリーディはステラがトルデォンを撃った時から、気が気ではなかったのだ。
そしてそんな想い人をすぐに抱きしめたかったが、今はそれどころではないことはお互い解っていた。
二人はしばし無言で見つめあった後、ステラは相好を崩して口を開いた。
「無事でよかった・・・。」
☆☆☆
その様子を見ながら、ダンはバルッシュを撫でているガンドーラを纏った青年に話しかける。
「にしてもよぉ~兄ちゃん、なんかとんでもないトコに来ちまったようだな。ま、兄ちゃんがあの婀娜っぽいねーちゃんと一緒に
城に入ってなければ、俺もコウも生きてここにいられなかったわけだしなぁー。」
「まぁね、メイも街一番の芸妓だけではなかったという僕の勘は外れていなかったようだ・・・。」
話しかけられた青年・・・キリアンがにこやかにダンの問いかけに答えた。
そしてバルッシュを撫でる手を止めてこう言い続けた。
「でも、この戦いが終わった暁には、メイにはちゃんと対価を支払ってもらうけどね。」
その彼のまなざしの先には、弓矢を持った芸妓の弟がいた。
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