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7
ついに・・・封印を解く者6人が集結した・・・。
「やっとだね。」
いつの間にか、銃を構えている青年が呟けば、
「ほんとね、でもさー、せっかく私があれ(レグルス)を窘めたのにさー。
またいきり立っちゃって・・・。」
薄絹を纏った黒髪の芸妓が、口を尖らす。
「隊長様、傷は・・・。」
巻き髪のつつましやかな聖女が、赤毛の巨漢の騎士を慮(おもんばか)ると
「案ずるな。」
アックスを握りしめて、彼はまっすぐとこの獣を見据えていた。
金の髪の騎士見習いは、赤毛の騎士同様何も言わずに目の前の対象物を睨みつけている。すると誰かが傍らに立った。
「ユリエル隊長」
「我々も加勢する。」
見るとユリエル隊長率いる四番隊が、守りを固めていた。
そして、
銀の髪の少女が、意の一番に槍を持って突進してゆく。少し弱っているようだったが、
彼女は怯まず突進する。クワっとその化け物が彼女を屠ろうと口を開いた瞬間、彼女は手に持った槍をその口腔内に躊躇わず、刺す。
獣は不気味な叫び声を放ち、彼女におぞましい体液を浴びせた。
同時に、リーディが、コウが急所を狙い剣を掲げて斬りつけ、銃弾を放った。
それを補佐するようにメイとグレインが加勢する。それはあっという間の出来事であった。あれほど苦戦していたレグルスを
6人でようやく討てたのだ。
しかし、
ステラの瞳は、滋養薬を飲んだと言えども、まだ能力が覚醒したままだったのだ・・・。
瞳の色がずっと、昏い(暗い)。
キャロルがすぐさま回復呪文を唱え、リーディがステラを支えながらこう声を掛けた。
「やっと皆揃ったんだ。お前がそこまでして(マレフィックの能力を覚醒してまで)
戦う必要はないんだ、ステラ。」
彼女は、彼を見つめ返すとこう答えた。
「私、あの時リスナーを一瞬の気の迷いで討てなかったんだ。だからもう油断も手加減もしない。」
添えられた手を一瞬強く掴んで、軽く身体に付着した体液を拭きながら、ステラは微笑んだ。ステラはずっと気にしていたのだ。エストリアから北上してきた時の山間での惨事で。操られたことを。
けれども、当時リスナーは、たとえステラが操られず、情も掛けていなかったとしても・・・敵わない相手であった。リーディはそんな彼女の呵責対しては何も言えなかった。
それから・・・レグルスが完全に息が絶えたのをキャロルが確認すると、
安堵に会場が包まれるはずだった。
助太刀したユリエル隊長もほかの騎士らもそう思っていた。
そう、皆油断をしていたのだ。
ステラを除いて・・・。
ステラの瞳が再び先ほどより深く色づく。
「リーディ、構えて!」
彼女の刺した指の先には、演壇から何者かが下りてきた。
「あれは・・・!ルーク王子!」
そう、この国の王子であるルーク王子がこちらに向かってきたのだ。
―姿が見えなかった王子の・・・ようやくお目見えか。やはり魔族に操られているようだ・・・。
そうだ王は・・・ベルヴァンド王は?
一瞬そういうことを考えたが、油断はならない。リーディはブロードソードを持って身構えた。
☆☆☆
「まさかな・・・勇者と封印を解く者たちがここまでどさくさに紛れて、ここまでやってくるとは・・・。」
ルーク王子はため息をつきながら6人の前に立ちはだかった。
「そなたたちが討ったこの獅子の餌になるはずであったがそこまで骨の無いものではなかったようだ・・・。」
そう言いながらぐるりと視線を動かし、黒髪の芸妓、メイを睨み付けたのだ。
「父上が・・・芸妓なんぞに心を奪われなければ・・・・。」
ルーク王子は憎々しげにそう呟いて、怨念の呪文を唱えだす。澱みなく発せられるそれは・・・対象物の動きを封じる呪怨だった。
「!!」
封印を解く者たちは、脚が竦んでしまっていた。
耳に響くその不気味な呪怨の音は、聴くものを突然の恐怖に陥らせ何もなす術もなく動けなくなってしまうのだ・・・。
その中でもステラは必死に動こうとしたが
マレフィックの力が覚醒していようが・・・それとこれとは別であった。
―只見ているだけなの??
ああ・・・あの王子は操られているだけではない・・・ものすごい心の慟哭が聴こえてくる・・・。そして・・
その憎しみをすべて・・・何かに・・・何かにぶつけようとしている・・・。
その「何か」とは・・・?
王子は渾身の力を込めて、サーベルを抜き放ち、自分同様に動けなくなっている
可憐な芸妓に向かって突進している。
―メイ!!!!!
☆☆☆
ルーク王子は何者かに操られている自覚がありながらも
この殺意は自分自身のものであると自覚もしていた。
目の前の芸妓は、一度だけ肖像でみた、父王の想い人に雰囲気が酷似していた。
そして父王とも・・・。自身とも・・・。
だから、憎い腹違いの妹だと。彼の中を流れる血が騒いだのだ。
―国家行事がありリストンパークの城下町に行ってから
父王は変わった。
―噂だと自分に腹違いの妹ができたらしい・・・。
自分の跡取りにしようと足しげく通ったが その腹違いの妹の母である芸妓は頑なに断ったらしい。
―結局懸想をしていたその芸妓を側室にもしなかったが、父王の心はここにあらずだった。
―正室である我が母上も見向きもせず・・・
もちろん、私にも。
サーベルを振り上げた瞬間、王子の目には涙が溢れていて、一気にそれは、顔面蒼白した芸妓に振り下ろされていた・・・・。
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