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 メイはその王子がなぜ自分を殺そうとしているかまでは知る由もなく。ただただ、自分に向けられた殺意に戸惑う間もなく、ルーク王子に刺されていたはずで、あった。 「姉さん!!」 コウの取り乱した声が響き渡る。 ―私、あっけなくここで死ぬの? メイは己を一瞬嘆いた。 同時に、最後に亡き母の踊りを踊ってから死ねるのだからある意味本望だと思った。 けれども、使命を・・・コウの夢を一緒に叶えられないなんて無念すぎるとも。 しかし、その憎しみの刃を受けたのは、彼女ではなかった。 「!!」 メイも、ほかの仲間たちも目を見張った。 彼女を庇ってその刃を間一髪受けたのは・・・赤毛の隊長であったから。 「三番隊・・・隊長・・・」  正気を逸したルークが刺していたのは、グレインであった。  彼は、呪怨が一番効きにくい上に兜のイヤーマフのお陰でかろうじて動くことができた。だから彼は咄嗟に、メイを庇ったのだ。 ごふっ、と血を口から吐き出し、グレインはたどたどしくつぶやいた・・・。 「なぜ・・・このような・・・こと・・・ォ・・・っ」 瞬間瞳の瞳孔が開いて彼は倒れた。 おびただしい量の血が流れて、彼の顔面はみるみる血の気が引いてゆき ピクリとも動かなくなった。 「グレイン隊長・・・?」 ズシャリと地面に倒れこんだ彼に、メイが、ほかの皆も駆け寄りたかったが、 呪怨のせいで動けない! 当のルーク王子も、グレインを刺した後、ゆっくりとサーベルを抜くや否や倒れてしまったのだ。 その身体から、何者かが現れた。 銀の髪で、頭蓋に張り付く耳朶、このように確かに魔族であるのだが雰囲気が違う。人間臭さがある。そして何より驚いたのは、瞳が虹彩異色-オッドアイであったことだ。左が紫で右目が金色の。 その男はステラ達を一瞥してこう言った。 「勇者・・・我と同じマレフィックミックスとはいえ、直系の血筋を引くものは 流石だな・・・・。」 ―この男もマレフィックミックス???? ステラは戸惑いを隠せなかった。 でも、自分と同じような人間臭さを感じるので、合点がいく。 「リスナー様、そして魔王様が恐れているのは全員が揃い封印が解かれること・・・。 しかしそなたらが揃ったといえども、この愚かな王子の体を使って、その一人を殺めた。 よって封印が解かれることは無くなったわけだな」 クックッと蔑んだように嗤うとグレインを見る。グレインはもう血の気がなく、目を見開いたまま倒れていた。 そう彼は・・・。 「まさか・・・」 グレインが、死んだ??? ステラは思わずその男を睨んだ。彼女は食って掛かりたかったがどうすることも、できない・・・。 「勇者、マレフィックの身体はとてつもない能力を秘めているが、そのうちそなたはその身体を疎ましく思うときが来るだろう・・・。今よりもっとな・・・運命を呪うまでに。」 ―え・・・? ステラにはその男の非情な笑みが、幾ばくかの憐憫の情も含んでるようにもみえたのだ・・・。 それから男はそう言い残して、いつの間にか消えた。 同時にステラも、仲間たちも呪怨から解放された。 湧く会場、ユリエル隊長らがグレインを取り囲み、キャロルが脈を診る。 同じようにルーク王子のもだ。 「ルーク王子は気を失っているだけ・・大分体力を消耗しているけど・・・。でも・・・」 キャロルは厳かな調子で言う。 「グレイン隊長は・・・息がもう・・・無いわ」  ステラやほかの仲間たちは、呆然と立ち尽くした。  数々の困難を乗り越えて、ようやくここまでこぎつけたというのに??  メイは自分が憎まれていたせいでと、今さっき知った事実を恨み、悔いた。  自身には落ち度はないと言えども・・・そうせずにはいられなかったのだ。 ちらりと倒れているルーク王子を一瞥して、彼女は項垂れた。それをコウが支える。 リーディもブロードソードを鞘に仕舞い押し黙っている。 ・・・ただ、ただなす術がなく、戦士たちは立ちつくす他無かった。
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