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風の音
真夜中、急に外で、ざざーん、ざん、ざん。と馴染みのない音がする。
動くのをやめると、ひざまずいて上半身をソファーに預けた吉村さんが振り向いた。
「風。風で木が揺れて、あんな音がする」
「騒がしいですね」
「北風だと、変な音になる」
薄闇に浮かび上がる横顔は、小さく、壊れやすいように見えて、俺は息を整えながら、
「大丈夫でしょうか」
と尋ねた。吉村さんはさらに体を捻って、俺を見て笑った。
「何がでしょうか」
「いや……痛くない?」
彼の腰を支えていた腕を下ろして背中に覆いかぶさると、中が締め付けられ、俺は堪えて、軽く突き入れながら肩甲骨のあたりにキスをした。
吉村さんは小さく声を上げて、腰を押し付けてくる。
「気持ちいい?」
汗の粒が唇にいくつも当たる。舌を出して舐め取り、吉村さんが呻くのを聞きながら、前に手を回した。
うん、と言ったのかどうか。淡々と風の音の解説をされると落ち着かない。
彼のものをゆっくり擦りながら、耳の後ろに顔を埋める。くすぐったそうに逃げようとするのを押さえ込むと、南、と呼ばれた。普段通りのどこか投げやりな呼び方で。
「はい」
「いいけど、膝が限界」
「あ、あ。早く言ってくださいよ」
「今が限界」
俺は腰を引き、吉村さんは床に敷いたタオルの上にへたり込んで息を吐いてから、くるりと俺の方に向き直った。
顔を近づけると、軽く唇を合わせてくれる。
「膝、大丈夫ですか」
彼が立てた両膝に、両手を当てる。
「皿は無事だよ。あのままやってると砕けたかも」
「嘘でしょ」
「タオルが薄すぎた」
ソファーで始めたのは俺なので、ごめんなさい、と口の中で謝った。細い肩に触れると、汗が冷えている。彼は俺の首に腕を回してきた。
窓の外から、ざんざんと不穏な音がした。
「吉村さん、続きしたい?」
俺が耳に唇を近づけて聞くと、吉村さんはまた肩をすくめた。
「くすぐったい」
「くすぐったいですか」
もう一度耳の中に声を吹き込んだ。彼は声にならない悲鳴を喉の奥であげて離れようとする。
動けないように抱きしめながら、舌を耳全体に押しつけて舐め上げる。
「や、あ」
「好きなくせに、耳」
そう言うと、彼はふと力を抜き、腕を緩めた俺の顔を見て、しばらく黙っていた。
「どうしたんです」
「何でもない。お前がいやじゃなければ、ベッドに行こ」
彼はソファーから床に落ちかかったタオルを手に取って、立ち上がった。
「いやなわけない」
「そっか?お前、この部屋でしたがるから」
後から思い出してみると、最初の一回を除いて、あとはソファーでやった。その時は四回めだった。
俺は、二階にある吉村さんの寝室が好きではなかった。
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