きみのいろ

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 玄関に着く。 「私、そっちの下駄箱なんで」 「うん」  二手に分かれる。僕は3年の下駄箱で、彼女は2年の下駄箱。  どご、バタン。  学校内で履いている指定されたスリッパを、自分用のスペースに入れる。通学用の靴に履き替えて外に出る。ほんの少し風が冷たい。 「ちょっと寒いよな」 「ですねえ」 「肉まんとか食べたくない?」 「あ、いいですね。先輩の奢りなら」 「あ……。あー、なんか歩いたら体があったまってきたー」 「絶対嘘ですよね。手ぇ震えてるし」 「分かる?」 「分かりますよー」 「じゃあ肉ま」 「絶対いやです」 「まだ何も言ってないじゃんか」  空には点々と星が散りばめられている。体の中をひんやりとした空気が循環していく。少し身軽になったように錯覚する。  軽い足取りで進むと、とある家の花壇が目に止まった。  パンジー。黄色や紫の色鮮やかな花たち。ほとんど日が落ちた街の中でも、その姿はまだ目視できる。  ふと、ある光景を思い出した。彼女の絵だった。黄色い光と紫の影。 「そういえばさ、二坂の描く絵って、パンジーみたいだよな」  そんな言葉が口をついて出た。  必要な文脈を全て端折って話したせいで、この暗さでも怪訝そうな顔をされたのがよく分かった。 「あ、いや。二坂が絵を描く時、光と影をいつも黄色と紫で表現してるなー。と思って。その色の組み合わせがパンジーみたいだなって」  何を言っているんだろう僕は、と思ったけれど、ちゃんと返事が返ってきた。 「ああ、あれですね。何となくその方が鮮やかな感じになるかなって思って、使ってるんですよ」 「癖みたいなもの?」 「そうですねー。最終的にはあれに落ち着いちゃうんです」  というかよく気づきますね。やっぱりさすが変態。  ……うるさいな。  そうやって話していると、空気の冷たさすら何故か心地良かった。  ✳︎  彼女は、いつの間にか僕らの日常に居た。  気づいたら美術部に入部していて、呼吸をするのと同じように滞りなくみんなと仲良くなった。  部室で見かけるようになったのは去年の2月頃だったはずだ。  はず、というのはその辺りの記憶が鮮明でないからで、それくらい彼女はいとも容易く部員の一人になったのだ。  ただ1つ不思議なのは、顧問の先生が部室に顔を出す時(来る日と来ない日がある)は決まって彼女が席を外していること。  僕の中では、本来、彼女は他の部に所属しているけれど、そこを無断でさぼってこちらに来ているのでは、という説が一番有力だ。実際どうなのかは知らないけれど。 ✳︎  爽やかに晴れ渡った空。昨日の夜は、眠りにつくまでずっと雨の音が聞こえていたのでどうなるかと思ったけれど、そんな心配も無用だったようだ。  雨で濡れた地面が朝日を反射して、道がまっしろになっている。
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