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長い夜が明けた。 ステラ達は軽く朝食を配給されて、しばらく待った後、正午前に王の御前に出るように呼び出された。  堅牢な王の間には、王を始め、カルサイトの隊長らが列を成してステラ達を出迎えた。 「そなたらには、侵入者と言えども、この儂が傀儡と化していた魔族の呪いから解き放ち、その上、瀕死であった我がカルサイトの精鋭の一人のグレインを救ってくれた。重ねて感謝する。」  王の瞳は、数年の操りから解放され、メイと同じ研磨された黒曜石のような漆黒に戻っていた。 「アゼル長官についてはカルサイトの会議でその後の処分を決めることとし、わが愚息、ルーク王子は大分衰弱していてな…。わが娘に言われた通り儂も反省しなければならない点が多々ある。病床から起き上がれたらきちんと向き合うこととする。」 コホンと咳払いをして、王は一度目を伏せて黙った。 「とはいえ…」 再びこう口を開いたときに、一瞬一同緊張が走った。 「・・・侵入者には変わらないのだから、処分するべきという声もあったが、反面我が国を、完全なる傀儡国家になり下がる直前に救い、その侵入者の一人が逢いたかったわが娘であり、再会もでき・・・そのおかげで儂自身の息子への向き合い方について考え直すきっかけにもなった。」 「王・・・。」 「まさか、昔ミレイに託したあのペンダントが、このような巡り合わせを運ぶとは、すべてさだめとしてこうなるようにできていたのだな。」 その微笑みは、禍々しいものがすっかり取り払われた穏やかな笑みであった。 「娘から聞いた。儂がこのように操られたのも、亡きエジットの細君の国スフィー二が壊滅しかけたのも…魔族…とりわけ大きな脅威に世界が曝されているからだと。」 「ベルヴァンド…王。」 リーディが今度思わず声を漏らした。 すると王がリーディのほうを向き、頷いた。 「スフィー二の王子よ。そなたの父、エジットの葬儀の際、葬儀に出ることはおろか・・・あやつを侮辱した記憶は、あの当時儂が傀儡と化していたとはいえ、憶えているのだ。誠に相済まない…。」 その言葉をベルヴァンド王自身から聞き、リーディ自身のベルヴァンドへの長年のわだかまりがすっと消えていくのを感じた。 「・・・いえ・・・何故そうだったのか理由がはっきり分かった今は…もう気に留めてはいない。」 丁重に言葉を返しながら、彼は一礼した。 「そして、グレインの処へ今朝がた、儂自ら様子を伺いに出向いた。そなたらのおかげで大分良くはなっている。もう少し回復してから(これからのことを含めて)あやつの希望を訊こうとしたが…起き上がるや否や、カルサイトを脱退して、そなたらに同行したい、と申し出てきたのだ。」 「!」 「ベルヴァンド王…!!」 今度はメイが、声を発した。 「・・・メイ、そなたとじっくり昨日話して、儂も色々考え抜いて出した結論だ。その勇者と名乗るオーキッド姫の娘に対しては、まだ完全には不信感が拭いきれていないのだが。」  ステラは少しだけ、気持ちが挫けそうになったが今に始まったことではない。受け入れてもらえなくても自身の信念を貫くだけだと奮い立たせて、平静を装っていた。 「・・・すまぬな、儂も数年間自身の気の緩みから魔族に魅入られた故に・・・そなたが勇者と言えどもそうなのだ・・・。だが、わが娘をはじめとする者のそなたに対する雰囲気からして・・・そなたは大分信頼をされていることは感じられるし、なによりも・・・瞳が澄んでいる。」 ーえ・・・? ステラは俯いていた顔を上げた。 「したがって結論から言えば、特にそなたらを咎めはしない。そもそも国が混乱に陥ったのは、儂のミレイへの恋慕の隙を魔族に突かれたからだしな?数日休んで装備を整えたら、出立するがよい。そして・・・」 王は立ち上がって顔を上げたステラに向かってこう言った。 「(メイ)を頼む。」 それから、 キリアンは武器をカルサイトに卸して、数か月後にコウにエストリアで会う約束をして 再び旅立った。 「メイのベルヴァンド侵入幇助の対価は頂くから。」 そう満面の笑みを湛えて。 コウは苦笑していたけれど、キリアンがすぐにメイに少しちょっかい出していたせいか、 その苦笑していた瞳が笑わなくなってきたのを悟って、最後にこう言った。 「メイ。君がまさか王族の血をひくものだったとはね。でも踊り娘である君が僕は一番魅力的だと思うよ」 「・・・あたりまえでしょー。まず第一に私の母は側室にもなってないし、私はずっと踊り子のメイってことには変わりないもんね。」 フフッとメイは笑うと、エストリアでね?と軽く手を振る。キリアンも振り向かず馬車に乗り込み颯爽と堅牢な門から旅立っていった。 一方、コウと行動を共にしていた、大男のダンは、レグルスが隠されていた地下の秘密の竪穴に遺っていた(王が操りから解放されてから、すぐに解体されて、哀れな犠牲者は きちんと弔い荼毘に伏された)恋人の遺品を回収して、故郷に帰ると言った。 「悲しいけど、俺も前を向いていかにゃぁ・・・。コウ、世話になったな?」 「ダン、それは僕もだよ。」 二人は堅い握手を交わした。 と同時に、コウの耳元で、ダンはこう言った。 「パツキンのにーちゃん、王子さんだったとはな・・・ヤベェ俺殺されるところだったぜ。」 「・・・恋人の遺品を手にそんなこと言えるんだったら、君もすぐ立ち直れるよ。」 苦笑しながらうんうんと頷くコウを見て、ダンはニヤリと笑い、皆に礼を言うと去っていった。 ☆☆☆  そして、数日の後グレインが完全に回復してから、旅立ちの前に私達封印を解くもの6人は、再び一同に会した。  このベルヴァンドで様々な事が起きて、色々な疑惑が明るみに出たけれどようやく 落ち着いた状態で 私たちは集えたのだった。
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