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キャロルは祈った。
―私がオベロン様から授かったこの力は…死んだものを再びこの世に呼び戻す力。
ただ私にはわかる。最終的にそれを授けられたのは私だが、私だけではそれは出来ない…彼を思ういろいろな人の想いも必要だ・・・。
それに・・・時間があまり無い。早く魂を呼び戻さなければ肉体が朽ちてゆく。
失敗したら二度とこの力は使えない。
―グレイン…まだ亡くなる時ではないわ・・・。
プレジオンはまだ来ないみたいね・・・。
キャロルはため息をついた。そして再び祈りに集中した。
* * *
「どういうことだ・・・??」
ベルヴァンド王は叫んだ。
「王、たしかにあたしはあなたに会いたかったし、本当の父さんのことをあたしは何も知らなかった。ただ、母さんはほんとうにあなたのことを愛していたんだと思う・・・。」
メイは衣装の飾り布を両手で握りしめながら答えた。
「でも、どうして母さんはあたしを連れてそちらに嫁がなかったのか・・・王よ、わかっているの?それは、母さんは自由でいたかったっていうのもあるけど、あの人のことだから、おそらく正室さんに申し訳ないという気持ちとか、陽気でなんも考えていないように見えたけど…きっといろいろ考えていたんだよ・・。」
ベルヴァンド王の顔色がみるみる変わってゆく。そんな王に構わずメイは言い続けた。
「じゃなかったら、王子さんだって魔族に取り入られることはなかった。あんたがちゃんとしてなかったからだろう??王子さんをひとりの息子として見ていなかったんだ!」
「そなたはいくら王のご落胤であっても 言い方を弁えよ!!」
カルサイトの隊長の一人が声を荒げた、が、メイは怯まず怒鳴る。
「うるさい!!あんたがたもおかしくなっていた王をどうにかしようとしなかったのか?
長いものに巻かれてた自覚があるのなら、黙ってよ!!」
その様子を静かに見ていたリーディもかつてはベルヴァンド王へ怒りの矛先が向いていたが父が亡くなった時 すでに王が操られていたと解れば納得がいった。
―にしてもまさかメイが…。
コウは心配げにそんな姉を見ている。
自身も神妙な顔でステラのほうを向くとステラも目で頷いた。それから彼女は俯き、つぶやいたのだ。
「グレイン隊長・・・キャロル…」と。
彼は何となくだが時間がないことを悟った。
―ただ、今のように様子を静観していると感情論なりそうだ。メイがこの国を継ぐにしろ継がないにしろ、それは一旦保留してペンダントのこともあるし、ここは俺が正体を現して話を進めたほうがよさそうだな・・・。
リーディはそう状況を読んで、口を開いた。
「王」
低いがよく通る声が、王の間に響き渡る。
同時にメイと王もそちらへ振り向くとリーディがいた。
その姿を凝視するやいなや、王は気が付いたようだ。
―かつてアゼルの前にカルサイトを束ねていた、今は亡き軍務長官にそっくりの若者だ。
髪の色は違えど、レイピアを携えて毅然と立つ姿がエジットに似ている。
―操られていた間も、エジットが亡くなった記憶は残っている。魔族によってスフィーニが壊滅したことも。
しかしその魔族に乗っ取られていた我が身は、葬儀にも出ずにスフィーニの王族が殲滅されたことを喜んでいた・・・!一体この侵入者たちは??娘とともに行動しているこのエジットに似る者は何者だ?
我が娘は何のために??
「初めてお目にかかる。私は南西にあるスフィーニ国第一王子、リーディ ヴィエント スフィーニである。このような形での目通りを申し訳なく思う。」
その言葉を聞いて 王だけではなくカルサイトの隊長…とりわけユリエル隊長は彼に対する疑念が払拭された瞬間だ。
ほかのカルサイトの隊長たちも一斉に騒めく。
―まさかと思ったが エジット元長官と、スフィーニ女王の・・・王子だったとは・・・。
「王がメイへ受け継いだペンダントと同様、私もこれを受け継いでいる。ここにいる侵入者となった仲間たちは皆そうなのだ。もちろん…亡きグレインもだ。我々はグレインを求めて、そして貴国の様子がおかしいと知って、侵入したまでである。とにかく、これを持つ者たちを集わなければならない。」
スフィーニの王子はそう言って自身のペンダントを王に見せた。貴石は翠緑。メイに受け継いだものと貴石の色だけが違った。
「一体・・・これは・・・。」
「我々も詳しくはまだわからない。我が姉であるフィレーン第一王女がスフィーニの叡智とともに調べている。ただ言えるのは、王も魔族に操られていたように、予言で言われている封印を解かないと世界が危機に瀕することは確かだ。そして・・・」
リーディはステラとコウにこちらに出て来いと振り向き、合図したので、コウは心配げな表情を一変させて、ステラと頷いてともに彼の横に歩み寄る。ステラは少し緊張しているようだが、
「この世界の戦士たちの間で名を轟かすエストリア・ギルドの武器職人が探す鉱石・・・エターナル・メタルを復活させることと・・・」
瞬間一斉にコウに視線が向く。
カルサイトの武器防具はエストリア・ギルドから流通されていた。
(※それを運んでいたのは武器商人キリアンである。)その有名な作り手が侵入者の
一人であったから。
「封印を解くことと同様の切り札。ここにいるリストンパーク王室の末裔である・・・彼女が勇者であり、世界の鍵だ。」
ステラは勇者と言われて実のところ、まだ葛藤があった。しかし、彼女はそれを振り払い、黙って堂々と王の御前に立った。
ベルヴァンド王はステラに視線を動かす。
―16年前に滅びたというリストンパーク。一度だけエジットとスフィーニ女王の婚礼の儀の時、最後の王族と言われるオーキッド王女を見たことがある。確かに・・・スフィーニ王子同様、髪の色と瞳の色以外は姫によく似ている。生き方知れずになった時、彼女は二十歳にならないかそこらであったはず・・・。
とても聡明な姫で、そのせいで縁談が持ち上がろうともなかなかまとまらないと噂されていたのだが、まさか子を成していたとは・・・!しかしそれ以上に・・・・。
ステラのいでたちから王は自身を乗っ取っていた魔性を感じた。彼女とあの魔性は同類の雰囲気がある。オーキッド王女には無い・・・銀の髪に紫色の瞳。
「勇者・・・・・・?まさに先ほど儂を操っていた魔族さながらではないか!!
そのようなものが本当に勇者なのか??」
「!!」
その訝しげな王の一言に再びカルサイト隊長が騒めきだした。今度はステラの直属であったキース隊長が、落胆したように項垂れた。
―やはり・・・オーキッド姫は・・・魔族と禁忌を犯して・・・。
ステラが演舞場でトルデォンを放つときに、キースも何となく気が付いていたが
憶測が確信と変わった瞬間であった。
一方のステラは怯みそうになったが平静を装う。その動揺を察知して、リーディが彼女の手を取り、しっかり握った。
―詳しくはステラのことを述べなかったが、王には魔族の血を引くことを勘付かれたか・・・。とにかく、ベルヴァンドを敵には回したくはない。穏便に・・・この状況を乗り越えねば・・・。
「ってかさー!!王。このリーちゃんが言う通り、王からあたしが受け継いだペンダントは重要な秘密があって、難しいことは言わないけど、とどのつまり 世の中が大変だってことよ!で、話を戻すけど、あんたの後は継がない。でも協力はしてほしいんだ!!」
メイも機転を利かせて話を戻す。
すると王の間の扉が開いた。
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