8(リーディ)

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8(リーディ)

そして、 俺も相当な魔力を消耗したので、寝落ちをしてしまったらしい。 ステラは部屋に戻ってきたのだろうか。 少し寝起きで働かない頭を研ぎ澄まそうとしたら隣の部屋で物音がした。不審に思いそっと自室の扉を開けると、ちょうど彼女が部屋から出ようとした矢先だった。 「…ステラ。」  ビクッと反応したステラは、こちらを見た。 ひどく、落胆しているようだ。きっと眠れなくなって部屋を出たに違いない。  しかし彼女は驚いて自室にまた入ろうとした。何があったんだ?キースの部屋で。このまま部屋には返せない。 「何があった?」 思わずステラの腕をつかみ、静かに問いただす。口調は冷静だけど、行動はつい、強引になってしまった。 ステラは、無理に作り笑いをして、平気よと呟き掴んだ手をそっと離させようとしたけれど、俺はさらにもう一方の手で 彼女の肩を掴んだ。 「平気なわけないだろ?」 「・・・。」  ばつの悪そうな表情で、俺のほうを見ずにステラは顔をそむけた。こういうところが不器用なんだ。  俺は無言で月灯りが入る、回廊の窓辺にステラを誘った。抵抗されるかと思ったら、大人しく彼女は従った。 ☆☆☆  俺は、回廊の窓辺にステラを腰掛けさせると、その隣に自分も座った。 月明かりの下で彼女の顔は、より一層蒼白く見える。 「・・・。」 俺たちの間ではよくある沈黙。 重苦しい空気が、漂う。 問い質したって、ステラは口を開こうとはしないだろう。それに、強引にこちらに誘ったのは俺だ。 待つしかない。  ステラはしばらく俺のほうを見ずに、空を見つめていたが俯いて伏し目がちになって、少しずつ言葉を紡いだ。 「…キース隊長は、母が許せないって…。」 ぽつりとつぶやいた言葉は、必死に溢れてくる何かを抑えているようだ。 「…わかってもらおうとはこれっぽちも思っていなかったはずなのに。心のどこかで期待してた。 今日まで、私は・・・禁忌の子だということを訝しがられたりすることは受け入れていたつもりでいた。 でも、母さんを知っていたキース隊長に…いざそう言われたら・・・。」 「・・・。」 「・・・ごめん。少し心が折れてしまったの。自分の身体にも不信感が募っているし…。 コロシアムでの戦いの時に、オッドアイの魔性に言われた言葉が離れなくて…。」 ―自身の身体を疎ましく思う時が来るだろう…。 そうだ、ステラと同じマレフィックスミックスだという、あのオッドアイ…。 ステラは、自身でも身体の異変に気が付いているようだ。 どうすることもできない、身体の倦怠感。魔力を使うたびに命が削られていく…。 俺は黙って聞いていたが、知らず知らずに拳を握りしめていた。やるせなさからだ。すると今度はステラが俺のわずかな変化に気が付いた。 「…リーディ…。気のせいだといいのだけど…なんか知っているの?」  俯いていた彼女がようやく俺のほうを見て、放った言葉がそれだった。まっすぐな視線。俺が隠している彼女の秘密が晒されそうだ。  でも今は、こんな状態の彼女に真実を気取られてはならない。 俺はそれに注意して、彼女を欺いた。 実のところ胸が、痛い。真実がどうであれ、隠し事をしていることには変わらないのだから。 「何をだ?」 「…私がリーディを助けるつもりでコロシアムへ、トルデォンを撃つために向かったときに キャロルに必死に止められたの。」 「・・・。」 「いつも穏やかなキャロルが、なんだか様子がおかしかった。」 「目立つ行動をしようとしたから、さすがのキャロルも動揺したんだろう…。」 「違う。そういう感じではなかったわ。」  きっぱり言葉を返した彼女に対して、俺は、どうにかして切り抜けねばと思った。 キースに言われた言葉でただでさえ傷ついているのに、ましてやあんな酷い真実なんて 今のステラには悟られたくはない。俺だっていまだに受け入れ難いというのに。 「ねぇ、リーディ。私は魔族の混血児であることを受け入れているけれど、先ほど言ったように、自分の身体が信じられない。何か知っているのであれば…。」 「もうキース隊長に言われたことは、受け入れているのなら忘れるんだ。俺が言いたいのはまずは、それだ。」 少し感情的に俺らしくなくステラの言葉を遮った。そしてさらに続けた。 「魔力を使うと身体に来やすいのは、確かなのだから。あまりトルデォンを使うな。」 「・・・。」 「頼む。」  思わず力が入って、彼女の肩を掴んで揺さぶってしまった。俺もいつの間にか必死になっていて、彼女も観念したようにため息をつく。 「・・・わかった。それは守るわ。そして、心配かけてごめん・・・。」 そう言って、肩を掴んでる俺の手をそっと離させて微笑んだ。 「なにはともあれ、どうなるかは明日を迎えなければわからないし…休もう。」 「そうだな。」  その微笑みは少し吹っ切れたようで俺は安心して頷いた。  話が変わるが、俺たちは侵入者であるにせよ、最悪処分されるということはないだろう。なぜならば、メイがベルヴァンド王の実の娘であるからだ。  ただ、グレインがどういう風に出るかまでは、わからない。いくら定めの仲間だと知ったとしても、一度殺されたのだ。それでも 我々の旅に同行する気があるかどうか・・・。  俺は、別の懸念が気になりつつも、ステラの手を軽く握り、おやすみと言って 部屋に戻った。
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