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日が沈んでいく。 演舞場での大惨事の後は、混乱を極めた。  まずルーク王子は医務室に運ばれて、その王子同様、グレインも医務室へ運ばれたが、すでにこと切れていて安置場に寝かされていた。  そして侵入者であるメイ、コウ、そしてそれを幇助したとされるダン・キリアンも王の御前へ、すでに城内の人間として忍び込んでいたステラ、リーディもであった。 当然キャロルも同様であったが・・・。 「お願いです。一度仕えた隊長様です・・・。どうか一晩だけでも 祈祷をさせてほしいのです。」 キャロルの決死の想いが通じたのか、カルサイト隊長の従者付き添いのもとであれば、 問題はないとみなされた。彼女は丁寧にお辞儀をするとプレジオンに付き添われて安置場へ向かった。 ☆☆☆ ベルヴァンド城の王の間は城の外観と同じく大層堅牢なつくりであった。 ステラ達はカルサイトの兵士に王の御前に連れていかれた。 聞くとアゼル長官は魔族と通じていたという疑いで簡易牢に繋がれたらしい。 グレイン以外の他のカルサイトの隊長が整列する。 「侵入者たちよ、まずは魔族の城への介入と、レグルスから兵を護ってくれたことに 礼を言う・・・。」 操りから解放されたベルヴァンド王は目を伏せた。 「ただ、そなたらは侵入者ということには変わりがないが。儂が傀儡と化していた間さまざまなことがこの数年で起きていて、整理が必要だ・・・。いろいろ儂からききたいことも山のようにあるが・・・さしては・・・」 王はステラ達を見回し・・・一人の芸妓で視線が止まった。そして玉座から立ち上がり彼女の目の前まで歩み寄る。 「そなたは・・・儂とミレイの娘・・・。そう、儂が引き取りたかった娘・・・・。」 「・・・!」 メイは眼を見開いて王をまっすぐに見つめた。 この人が・・・まさか王が自分が探していた本当の父親・・・? 「すぐにそなたの舞を見て、最初はミレイかと思った。けれども髪の色が儂と同じ漆黒のベルヴァンドの民の色だ。そして、」 ベルヴァンド王はメイの吊り下げている赤い貴石の付いたペンダントを一瞥し こう続けた。 「これはそなたが生まれた時に輝いた。そして儂はミレイに託したのだ。儂とそなたが実の親と娘だということの何よりの証拠だ。」 「!」 メイは言葉が出なかった。加えて周りの家臣たちもカルサイトの隊長たちも― 動揺は隠せない。ステラ達もだ。 「・・・。」 「本当はミレイを側室とし、そなたに後を継がせたかった。そなたの腹違いの兄である そう・・・今回の騒動の元凶であったルーク第一王子は病弱でな・・・」 王はため息をついた。 「儂は愚息に跡は継がせたくはなかったし、しかもミレイは何度リストンパーク城下に通って説得にあたっても側室にはなりたくないし、そなたは渡さないというのだ。だから儂はせめてものつながりとして・・なによりもそなたが生まれた時にそれは光ったのだから、ミレイに託したのだ。」 一連の王の言葉にメイは呆然としていた。 ―あんたのとーさんはどっかの国のお偉いさん。 母が陽気に言っていたのを思い出す。まさにこの王が、母のかつて愛した人だ。 だけど、母がそんなに愛した人だと分かっているけれども、どこか引っかかるのは何故だろう?メイ、やっとあんたの願いが叶ったのに・・??と自問自答をしている自分がいる。 すると黙っているメイに対して王は優しく言った。 「どうじゃ?愚息は今回も・・・魔族と通じて国をめちゃめちゃにした。アイツは王の器ではない・・・今からでも遅くない。そなたが儂の正式な王位継承者になれぬのか?」 「王!!侵入者に対して何を・・。」 「黙れ!!こやつは儂の娘だ!先ほど儂が申した通り、このペンダントが何よりの証拠だ!」 あ・・・ これか・・・。 メイは王のその言葉を聞き取った瞬間引っ掛かりの正体がなんなのか うっすらわかった気がした。 ―王は・・・先ほど私を斬ろうとした王子さん(つまり自分の兄)を疎んじていたんだ・・・。母さんもそんなところへ寵愛を受けている自分が嫁いだとしても誰も幸せになれないと気が付いていたんだ・・・。王も、王子も、母さんも、私も・・・。 ―母さんは弁えた人だった。だから身を引いたんだ。 メイはしばらくの沈黙の後、 ゆっくりだけれども、しっかりとした抑揚で答えた。 「断ります。」と * * * * * * キャロルはあと一日で荼毘に伏される予定である、グレインの亡骸の横の祭壇の傍で 祈っていた。  どのくらい時間が経っただろうか?付添いであるプレジオンが心配気に  キャロルの様子を窺う。プレジオンの瞳は、赤い。尊敬していた隊長が、 こともあろうにこのようなことになってしまったのだから。  プレジオンは同時にキャロルとその仲間が侵入者であって何者かということも 気にはなっていたが、それ以上に隊長の死が受け入れ難かった。 「ええ・・・大丈夫よ・・・。プレジオン。それよりも・・・。」 「なんでしょう?」 「私の仲間たちがなるべくここに来れるように・・・王の御前だから難しいかもしれないけれど・・・手配してほしいの」 キャロルは祈りながら想い出していた。 スフィーニに滞在時に、それこそヴィーニーに頼まれて妖精の国へ出かけて オベロンに謁見した時のことを。 妖精の長は彼女に力を授けた。 「わしが森の妖精、精霊すべての力を呼び寄せてそなたに託した。どういう時に使えるかは修道女であるそなたにはわかるじゃろう。 ただし、一度のみじゃ。」 まさに今、それを使うとき――!! キャロルは組んでいる手に力を込めた。
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